第20話 幸せな時間

部屋の明かりは落とされ、行灯あんどんのやわらかな灯だけが畳に淡い影を落としていた。

並べられた布団に横になりながら、二人は互いの鼓動を意識し合っていた。


言葉を交わすことなく過ぎていく時間。

沈黙の中で視線が重なった瞬間、自然に身体が寄り添い、結衣は俊太郎の胸へと引き寄せられる。

唇が触れ、浅い口づけがやがて深く、長く続くものに変わっていった。


俊太郎の指先がそっと結衣の浴衣の帯に触れる。

結衣は小さくうなずき、目を閉じる。

するりと帯が解け、布が緩むと、胸の鼓動がいっそう速まるのを自分でも抑えられなかった。


彼に導かれるように、自らブラのホックを外し、袖から抜いた。

羞恥と高鳴りが同時に込み上げ、息が乱れる。


「…っ…ん…」


俊太郎の唇が胸の頂に触れた瞬間、結衣の身体は小さく跳ね、吐息がこぼれた。

唇が胸に留まるまま、彼の手は下腹へと伸びていく。

ショーツ越しに触れる指先は、すでに熱を帯びた場所をなぞり、その感覚に結衣の両腕は俊太郎の背へ強くしがみついた。


身体の奥底からあふれる欲望と同時に、「愛されている」という確かな実感が胸を満たしていく。

やがて二人は自然に重なり合い、互いの温もりを確かめ合うように深く結ばれた。




しばらくして訪れる静かな余韻の中、結衣は俊太郎の胸に頬を寄せる。


「この幸せな時間がずっと続けばいいのに」


と、心の奥で願う。安堵に包まれ、俊太郎の腕の中で静かに眠りへと沈んでいった。


翌朝、まだ薄暗い時間に目を覚ました二人は、館内の露天風呂へ向かった。


「また、後で…」


短く伝え、それぞれの浴場の暖簾のれんをくぐる。


ひんやりとした朝の空気の中、湯気が白く立ちのぼり、静けさを包み込んでいる。

肩まで湯に浸かる結衣の頬に、夜とは違う新鮮な熱が宿る。


結衣はひとりきりの湯舟の中、そっと下腹へ手を伸ばした。

昨夜の彼の温もりがまだ内側に残っているようで、思わず頬が赤らんだ。


朝食を終えた卓で、俊太郎が「今日はどうしましょうか?」と尋ねる。

結衣は一瞬考え、登山鉄道に乗って近くの美術館へ行こうと決める彼の提案に、ふっと微笑んだ。

またひとつ旅の楽しみが増えたのだと思うと、胸がやわらかく温まる。


チェックアウトの手続きを終えると、宿の仲居が「またお二人でお越しください」と微笑んだ。

結衣は小さな声で「また来たいね」とつぶやく。

俊太郎は静かにうなずき、その手を自然に取った。


外の光が差し込む玄関を出る二人の手は、温泉宿を後にしてもなお離れることはなかった。

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