遅延編

第5話 入院

 時刻は午後三時、清潔な室内で僕は腕を固定されている。僕は入院することになった。このままだとゴールデンウィークは過ぎ、そのあと数日間は休むことになる。あの二人にはどう言うべきなのか......


ウッドストン「体調はどうだ?」


 果実を手にしてルータがケントの病室に入る。やはり筋肉隆々な肉体が仕上げられている。それだからかケントは少し恐れている。


颯田「聞きたいんだけど、何でこんな治療法なの?」


 ルータははっとした表情をし、こちらにその訳を話す。


ウッドストン「あ~、それは最新機器は電波が送られる仕様になっている。使っている装置だかの都合らしいのだが、それで政府に見つかってしまうようだ。詳しくはわからないからそういうことにしてくれ」


 納得はした。そして、もう一つ聞きたいことがあった。


颯田「もう一つ聞きたいことがあって......」


ウッドストン「なんだ?遠慮はいらないぞ」


颯田「リツについてなんですが......」


 ルータはその言葉を聞いて目を輝かす。先ほどまでの堅実な表情ではない。だが、ケントの表情を見て真剣な話だと思い、すぐ元の表情になる。


ウッドストン「なにがあったんだ?トラブルか?」


颯田「リツの......過去についてなんですが......」


 重い口を開いてケントは言った。その言葉を聞いてルータはそれよりも重い口を開けて話す。


ウッドストン「鷺島が小学生の頃何かがあったのは知っているか?」


颯田「はい、自分の命も狙われているというような......」


 ルータは更に重い表情になり決意を持ってさらに話す。重い空気が辺り一面を覆う。


ウッドストン「俺も詳しくは分からない。でもその当時は鷺島の身元がばれていないと思っていたんだ......」


ウッドストン「でも、違ったんだ。鷺島が小学校二年生のとき、たった一人の男によって日常が奪われたんだ」


ウッドストン「その時の死者は生徒、教職員を含めて三桁を超えたらしい」


 その話を聞いて僕はただならぬ寒気と恐怖、そして体中に激痛が走るような感覚になった。


颯田「うっ......」


 嗚咽する。その出来事は吐き気を催す邪悪そのものだった。それを見てルータは慌てて話を逸らす。


ウッドストン「申し訳ない、あまりにも生々しい話だったな......少し楽にしてくれ」






 少しの間、沈黙が続く。何分経ったのだろうか、ケントの症状が収まったころ再びルータは話し出す。


ウッドストン「なあ、鷺島の感じはだったか?」


颯田「つらい話をするときは本当に辛そうでしたけど......」


ウッドストン「......任務の前はどうだったか?」


颯田「楽しそうでしたよ、美味しそうにーー、食べていたし」


 その言葉を聞いて、ルータは嬉しそうに微笑んだ。ルータからは優しい父性味を感じられる。


ウッドストン「そうか......嬉しいよ。君に会えてからとても笑顔が増えてね......」


颯田「そうなんですか?元からあんなに明るいのかと......」


ウッドストン「いや、暗かったよ。声も弱かった。どうにかできないか行動したり考えたりしたけど......だから、感謝している、ありがとう」


 人のために考えられるんだな、ルータさんって


 ケントの中のルータに対する印象がどこか変わった気がする。


ウッドストン「そういえば、鷺島に聞いたんだが、どうやら「あーん」を迫られたらしいな、颯田」


 ルータはどこかニヤついた表情をしだす。


颯田「あ!それは......」


ウッドストン「俺が吹き込んだわけではないぞ、でも鷺島が頑張って君と仲良くなりたいと思った気持ちだから大切にしてくれよ」


 ケントはあの行動が何か吹き込まれたことによるものではないことに気づき安心したが、ルータがどこか学校のあの二人の感じが見えて少しぎょっとする。


ウッドストン「まあ、随時報告してくれな。そろそろ時間だから帰るね」


 そう言ってルータは病室を出ていった。


 いい人なんだけど......なんか不安になるなあ、あの人......






ウッドストン「ふっ......いい奴だな、アイツ」


 ルータは一人そうつぶやく。


鷺島「ねえ、随時報告ってどういうこと?」


 外で話を聞いていたのか、リツが少し切れた口調で話かける。


ウッドストン「そ...それはな、二人が色々しているところは知ってたいじゃん、ね?」


 ルータは動揺を隠せない様子である。それを見てか、リツは更に攻撃を仕掛ける。


鷺島「そうだよねぇ、レイナが知りたがってるんだもんね?」


 レイナ、その人物の名を聞いてからルータは更に目をガン開く。図星なのだろう。


ウッドストン「あのな~一応俺、お前の身元保証人なのね、少しは配慮してくれよ」


 だが、ルータは動揺はせずあきらめたかのように話す。その言葉を聞いてリツは少し驚いたが、そのまま話したいことを口にする。


鷺島「ルータがレイナを好きなのは知ってるからさ、その随時報告?ゆるしてあげるよ。十歳差の恋愛が難しいみたいなの聞くし」


 その言葉が心にぐっさりと刺さったのか少し落ち込んだ表情を見せる。だがその後、どこか違和感を感じ、質問を投げかける。


ウッドストン「はあ......でも俺の五月雨に対しての想いは昔っから知ってるだろ?なんで最近いうようになったんだ?」


 リツはほのかに赤い顔になる。


鷺島「最近、そういうの分かるようになったからさぁ......」


 その姿、発言を聞いてルータは見たことのないものを見るような表情になる。だがそこには暖かく見守るようなまなざしにも見えた。


鷺島「何でルータがレイナにそんな想いを寄せるのかピンときてなかったけど......」


鷺島「なんか、甘酸っぱい、ってそう思えるようになったよ」


 甘酸っぱい......そうだな


 ルータは一人その言葉を咀嚼した。リツから来る言葉とは思っていなかった。


鷺島「ねえ、そろそろ、颯田くんのところ行っていい?」


 リツは腕時計をチラッと見て、うずうずしていた感情を吐き出す。


ウッドストン「ふっ、そうだな、話したいことだらけだもんな」


鷺島「そ、そうだけど...何か?」


ウッドストン「いや、颯田も喜ぶんじゃないかな?」


 その言葉を聞いてルンルンとケントの病室に入っていった。


 楽しみだなあ.........






 まだ午後五時かとケントは暇を嘆いている。その時、ドアが開いて誰かが入ってくる。


 あれ?リツじゃん......


鷺島「けがの調子はどう?」


颯田「大丈夫だよ、リツが来てくれて嬉しいよ、暇で暇で仕方なくて」


 実際、ケントは銃を触るぐらいしかすることは無かった。その後、リツとケントの二人はおしゃべりを続けた。


 リツは顔を紅潮させながらとあることを聞いてきた。


鷺島「突然なんだけど......普通の男の子ってどういう感じなの?」


颯田「知っても意味ないようなことしか考えてないよ」


鷺島「それでも聞きたいんだ......だって私、普通がわからない気がして」


 ルータさんから聞いた過去もあるからなぁ......


 ほかの人と違うのが怖いのかもしれないとケントは思う。


颯田「わかったよ......普通の男子ね......」


 頭には赤沢トオルが思い浮かぶ、ゴールデンウィーク前の学校から一度もあってないけど大丈夫かな......いや、僕みたいな目に遭っているわけじゃないし大丈夫か。


颯田「えっと、よくふざけている感じはあるかな」


鷺島「ふざけている?どんな?」


颯田「どんなって......いじってくるっていうか」


鷺島「え!、それって大丈夫なの?」


 リツは嫌なことをされていると思ったのか心配の色を見せる。


颯田「いやいや、そんな別に嫌なことじゃないよ」


鷺島「ならいいけど......じゃあ颯田くんは普段なにしてるの?」


 普段?僕は朝起きて学校に行って終わったら部活に入っていないからそのまま帰って......あれ?何しているんだ?


 ケントの脳内には『虚無』というスケジュールで埋まっていた。


颯田「何してるんだろうな......何もしていないような.........」


鷺島「ええ!何もしてないの?うーん、じゃあ、たまにどこか出かけようよ」


 出かけるか......確かにな、何か残るかもしれない。


 ケントは異性からの誘いを何とも思わなかった。

 時刻は午後七時を過ぎていた。


颯田「うん、いいよ」


鷺島「え!!!じゃあ......でも、どこ行こうかなぁ......颯田くん、どこか行きたいところある?誰かと遊ぶの久し振りで......」


 リツは嬉しそうに言葉を走らせるがその先を考えていなかったのかすぐ失速する。


颯田「うーん、どうしよう、後で考えておくよ」


 ケントは自分から目的地を考えて遊ぶことなどなかったので何かをするか決められず、一旦先送りすることに決める。


鷺島「うん、ありがとう。あ!そろそろ時間だ、退院出来たらどこか行こうね!!!」


 ブロンズの髪が嬉しそうに歩くそのリズムで病室の外へたなびいていった。

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