捻じれて、愚直
三門兵装 @WGS所属
第1話
車は私たちの足だ。
四国の北の端、閑散としたというよりも田舎臭いこの村は、中学校に行くのにすらスクールバスを使う。
鳴門大橋から伸びてくる高速道路を脇目に、今日も私はバスの中で心地よく舟をこいでいた。
もっと都市部に行けば学生たちは全員が自転車や電車からの歩きで学校に行っているんだとか。大変そう。
運動音痴の私には無理だね。うん、家で二度寝できないのだけが玉に瑕ってやつだけど、私にはバスの方がいいや。
車が1台2台、3台……じゃないや、2台重なってる。4……あれ、違うな。5台、6台……。ほうら、だんだんと眠くなってきた。
『次は――』
プシュー、ぱたん。
「やほ、沙良」
む、せっかく今寝られそうだったのに。
顔を上げても、視界は真っ暗。あ、そういえば今日髪の毛くくり忘れたんだった。
くすくすっと、笑い声が聞こえて、隣にぼすっとカバンが下ろされる。
全く。
わざわざ間抜け面で慌てふためこうとしたわけじゃないっての。っていうかそのカバン重そーだね。え、今日から二学期だから気合入れてたくさん参考書を持ってきた? いやいや参考書をカバンに入れても賢くはならんでしょ。可能性だとか、本の神様だとかはまったく信じない性分なんですよ、私は。ええ、つまらんって?
ぷふっ、と間抜けた笑い声が漏れたのを確認してから、私はようやく相手の目を見て面向かう。やーい、どんなもんだい。貴方だって間抜けな面してやんの。
「おはよ、明美」
言った途端、明美はこてんと小首をかしげてみせて、私を下から仰ぎ見るようなふうにして、少しの間をとってから口を開く。
「おはよ、沙良ちゃん」
……うげ。
「そういうのあんまり好きじゃないって言ってるはずだけど?」
「私が好きにさせちゃうもんねー」
はいはい
「ちなみに何の真似?」
待ってましたと言わんばかりに明美は両手を開いて、目をキラキラさせる。
「これはね……」
これまでが私たちのルーティーン。どこか恍惚に両手を合わせて自分の推しの何たるかを語って、時折「聞いてる?」って相槌を促されて。
窓に映る景色にはビルが増えてきているから、学校まではあと10分くらいかな。
本当はアイドルなんてアの文字も知りやしないんだけど、楽しそうだからいっか。
あ、明美、興奮するのはいいけど私のカバンをバンバンするのはやめて。
あ、ちょっと。
はあ。私はまた一つため息をついた。
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