───
そんなこんなで冬休みも終わり、一年の最終学期が始まった。
私が所属している軽音楽部は週四回活動がある。
私の愛キーボード、ニッシーはお米一袋分と大体同じ重さがある。それを背負って一時間近く通学するのは最初のうちは大変だったが、今ではだいぶ慣れた。
ぼっちで練習を始める。
いつも一緒にいる同じキーボードパートの庵戸叶(あんどかなえ)は今日は塾らしく来ていなかった。
流石に二年生にもなりそうなこの時期に、こんなに友達が少ないのは不味いのでは。
交流を広げるべきだというのはわかっている。
いつまでもコミュ障して叶に迷惑をかけるわけにもいかないのもわかってる。
でもそれが出来ないのがコミュ障たる所以なのだ。
はぁ、せめて初対面の人と話すことに緊張さえしなければ……。
自分の人見知り具合を恨みながら練習に取り組む。
ま、まあ、ポジティブに考えれば黙々と練習出来るってことだもんね! ただでさえ下手なんだからもっと頑張るぞ!!
べ、別に、楽しくお喋りしながら練習してて羨ましいなぁとか思ってないんだからね!!
練習が終わってミーティングまでの空き時間。いつも通り青い鳥のアプリをぽちぽちといじる。私の推し野球選手、岩山真吾のかっこいい写真が沢山流れてる至福の時間。 うーん今日もイケメンや。好き。とか思いながらいいねとリツイートボタンをいそいそと押した瞬間だった。
「隣、いい?」
「えっ、あっ、大丈夫デス……」
大前提として私が声をかけられることなんてほぼほぼないけれど、その中だったら比較的声を掛けてくれる人だった、音木梅乃。
一年生の時に私が作ったバンドメンバーの一人。 バンドメンバーと言ってもめちゃくちゃ仲が良いってわけでもなく。……すぐに解散してしまったから。
それでも時々話しかけてくれるぐらいには親交がある。
なんてこと考えてる場合じゃないか。
改めて隣に座った音木ちゃんをそっと観察する。
ブラウンがかったふわふわとした髪。
顔立ちは整っていてどちらかというとかっこいい系。
でも、笑うと可愛い。
私とは全く違う人種で、いわゆる陽キャに分類される(私調べ)。いつの日か本人に言ったら否定されたけど。
いつもの梅木ちゃんの周りには笑顔が溢れていて、楽しそうだ。 実際バンドを組んでたときも面白い話をたくさんしてくれていつも笑っていた記憶がある。
私の視線に気づいたのか、こっちに視線を向けて、不思議そうに首を傾げる。
いきなりのことにびっくりして、目を逸らそうとしたけどその前に梅木ちゃんが口を開いた。
「いきなりでごめんなんだけどさ、一緒にカラオケ行かない?」
「……はい?」
そんなこんなでカラオケに連れて行かれた。 正直緊張と楽しさのあまり記憶にない。 でも多分、楽しかったのは梅木ちゃんもだったらしく……。
ご飯食べに行きたいんだけど、どう?
遊びに行きたいなー
お昼ご飯一緒に食べない?
なんとことある事に誘われるようになった。
お互い下の名前で呼び合うようになったし。 これは、いわゆる友達になった、というやつなんだろうか。 いや、あんな人気者の梅乃とド陰キャの私が絡んでいいものなのだろうか……。と悩みつつも、 さすがの私でも分かるぐらいには仲良くなった。廊下で会ったら挨拶するし、部活でも一緒に練習するようになったし。 ここまで来たら自惚れじゃないだろう。
たった三ヶ月。されど三ヶ月。
高校生活の中で間違いなく一番楽しい時間だった。
大学生になってもぼんやりとこの友情が続くんだろうなと思っていた。
それぐらい梅乃と過ごす時間は居心地が良かった。
もっと昔から仲が良かったんじゃないかと錯覚するぐらいには、気が合った。
一緒に時間を重ねることでお互いのことを沢山知った。
一緒に野球も見に行くようになった。
梅乃は中学時代ソフトボールをやっていたらしく野球にも詳しい。 野球の事を語り合える女の子の友達なんて初めてだった。
何回か男子二人を交えて野球を見に行ったりもした。
そいつらから、
「お前ら仲良すぎ。本当は付き合ってるんじゃねーだろーな」
と言われるぐらいにはお互いがお互いにベッタリだった。
恋人繋ぎとか当たり前だったし、梅乃が頭を撫でられると嬉しいと言われてから良く頭を撫でたりしていた。
梅乃が嬉しいと私も嬉しいなと感じるから、梅乃の喜ぶことは何でもしてあげたいなと思っていた。
それは梅乃も同じらしく、よく梅乃からお菓子や物を貰うようになった。
二年生になってからもそのベッタリ具合は変わらなかった。 休み時間になったら梅乃が私のクラスに絶対遊びに来るし、お昼もよく一緒に食べる。
新しいクラスメートからも、二人って、恋人みたいだねと言われるぐらいだった。
更に、叶も巻き込んで三人でよく遊びに行くようになった。 梅乃の誕生日を祝いに一緒に出かけたり、お泊まりしたり。
本当に楽しかった。私も高校生活を謳歌出来るんだと嬉しかった。
だから、気づかなかった。いや気づきたくなかった。 お互いの感情がどんどん歪になっていることに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます