農村ライフ〜毎日忙しく楽しい農村へようこそ〜

みなと劉

第1話

この世界、エルドリア大陸の南端に位置する小さな農村、ウィンドフェル。


 魔法の風が吹き抜ける草原に囲まれ、豊かな土壌が自慢のこの村で、主人公の青年、エルン・グリーンフィールドは今日も朝早く目を覚ました。

 異世界ファンタジーとはいえ、彼はただの村の住人。

 転移者でも転生者でもない、純粋にこの世界で生まれ育った青年だ。

 二十歳を過ぎたばかりの彼は、村の中心的な農夫として、家族の畑を切り盛りしている。


「ふう、今日もいい天気だな。風の精霊が味方してくれそうだ。」


 エルンはベッドから起き上がり、窓辺に置かれた水差しから冷たい水を顔に浴びる。

 村の家々は木と石でできた素朴な造りだが、壁に刻まれた古いルーン文字が、かすかな魔力を宿して家を守っている。

 エルンはそれを当たり前のように受け止め、いつもの作業着に袖を通した。

 麻のシャツに革のエプロン、腰には小さな狩猟ナイフを差す。朝食は簡単なものだ。昨日の残りのパンに、蜂蜜を塗ってかじる。

 蜂蜜は村の養蜂家のおばさんが作るもので、魔法の花から採れた蜜が入っているため、食べると体が軽くなる不思議な効果がある。外に出ると、村の空気は新鮮で、遠くの森から聞こえる鳥のさえずりが心地よい。

 エルンの家族の畑は村の外れにあり、約一ヘクタールの広さ。主な作物はウィートコーンと呼ばれる黄金色のトウモロコシだ。

 これは普通のトウモロコシではなく、魔法の土壌で育つため、収穫した実は光を帯び、食べると一時的に視力が良くなるという。

 村人たちはこれを

「目覚めの恵み」

 と呼んで愛用している。

「よし、まずはチェックだ。」

 エルンは畑の端から歩き始め、土を優しく掘り返す。

 根元に手を当て、魔力を少し流し込む。ファンタジー世界の農作業は、ただ耕すだけじゃない。

 村の住人たちは生まれながらに微弱な魔力を持っているので、それを作物に注ぐのが常套手段だ。エルンの手から淡い緑の光が漏れ、ウィートコーンの葉が喜ぶように揺れた。


「うん、今日も元気だ。昨日より二本、芽が出てるぞ。いい感じだな。」


 チェックを終える頃には、太陽が空高く昇っていた。

 畑仕事の合間、エルンは近くの草原へ向かう。狩猟は村の基本的な食料源だ。

 草原には狸のような小動物、ファロックスと呼ばれる兎の仲間がうじゃうじゃいる。ファロックスは普通の兎より少し大きく、耳に小さな角が生えていて、魔法の草を食べて育つため、肉が柔らかく、栄養満点だ。

 エルンは弓を手に、静かに草むらに身を潜める。


「来い来い……あ、そこだ!」


 シュッと矢が放たれ、ファロックス一匹を仕留める。

 血を抜き、皮を剥ぎ、すぐに持ち帰る。

 今日は二匹。

 夕食にスープにしよう。

 狸の仲間、トリックスター・フォックスも時々現れるが、あいつらは賢くて捕まえにくい。捕まえられたら、肉だけでなく、尻尾の毛が魔法の染料になるので一石二鳥だ。

 昼近くになると、村の仲間たちが集まってくる。エルンの幼馴染の少女、リナが畑の向こうから手を振った。

 彼女は村のハーブ専門家で、薬草を混ぜて作物の成長を助けるのが得意だ。


「エルン! 今日のチェックはどう? 私のハーブスープ、試してみない?」

「もちろん! それでコーンの成長が早まるんだよな。ありがと、リナ。」


二人は笑い合いながら、畑の雑草を抜く。村の生活はこうして支え合う。魔法の力はあっても、汗を流すのは変わらない。

 午後、エルンは収穫したウィートコーンをカゴに詰め、村の馬車に積み込む。

 市場町、グリーンヴァレーは村から半日の道のり。週に二度、出荷の日だ。馬車を引くのは村の共有馬、スターライト。こいつも魔法の血を引くのか、疲れ知らずだ。


「じゃあ、行ってきます。今日の売れ行き、いいといいな。」


 村人たちに見送られ、エルンは馬車を走らせる。道中、草原の風が心地よく、遠くの林からトリックスター・フォックスの鳴き声が聞こえる。

 市場町に着けば、商人たちと値切り交渉。ウィートコーンは人気商品で、街の魔法使いが視力回復に欲しがる。金貨が手に入れば、村の道具を新調したり、みんなで祝宴を開いたりできる。

 夕暮れに村に戻ったエルンは、今日の獲物のファロックスを煮込み、家族と夕食を囲む。父は老いた体で畑を手伝い、母はパンを焼く。妹のミアはまだ子供で、興奮して狩猟の話を聞く。


「兄さん、今日も狸は捕まえられなかったの? 次は絶対捕まえてよ!」

「はは、次はな。明日も早起きだぞ。」


 こうして一日が終わる。エルンの農村ライフは、忙しくも楽しい。


魔法の作物、狩猟の興奮、出荷の達成感。そして、村人たちとの絆。異世界のファンタジーとはいえ、ここウィンドフェルは、ただ穏やかで満ち足りた場所だ。


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