最強守銭奴、【スキル購入】で奴隷リノベーション 〜大成した奴隷(剣聖・聖女)が恩返し? 突き放しても特大の愛と金を貢いでくる〜

クー(宮出礼助)

第一章 再会と新入り

第1話 どれだけ苦労して探したと思ってるんですか……!

 日が暮れ始めた、王都の路地裏。


 表からは家路に着く者たちの声がうっすら聞こえてくる。


 だが。こっちでは、そんな平和な声なんて一つもありやしない。


 聞こえるのは自分の荒い息遣いと。


 ――俺を追う、正体不明の男たちの足音だけだ。


「クソッ、しつこい。どこまで追ってくるつもりだ……!」


 もう二十分は走ってるんじゃないか? なにが目的かも、どこのどいつに嫌われたのかも知らんが……!


 こっちにはお荷物もいるってのに……。


 俺は腕の中のずっしりとした重みに視線を落とす。


「――! ご、ごめんなさい。自分で走れなくって……」


「いや……いい。足怪我してるんだ、仕方ない。それに足が動いたとしたって……」


 お前の歳じゃ、逃げ切れるわけないからな。


 腕の中の薄汚れた少女……栄養失調で成長が遅いことを加味しても十歳ってとこか?


 それに、あの狭くて不潔な牢の中にいたんだ。走れる体力はろくに残ってないだろ。


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……! 捨てないで――」


「捨てるつもりなんてない。お前はこの俺が貴重な金を出して買った……奴隷なんだから」


 金貨にして三枚。だいたい王都の一般市民が二月で稼ぐくらいの金額だ。


 人の命についた額としてはしょっぱいもんだが、それが俺の貴重な収入源になるんだ。山のような大金を貯めねばならんし、捨てるなんてとんでもない。


 だからこうして、まで使って逃げてるわけだ。


 ……背後から、俺を追う男たちに会話が聞こえる。


「くそっ、追いつけねえ!」


「奴隷使いのやつ、身体強化系のスキルを持ってるとはな!」


「金の亡者で、強え奴隷を盾に威張るクソ野郎だと聞いてたが、逃げ足だけは速えようだなァ!」


 はっ、散々な言われようだ。全部事実だが。


「スキルならそのうち魔力に限界が来るだろ! 今はちょうど他の奴隷を高値で売り払ったとこだから、足が止まればこっちのもんだ! それまでは粘るぞ!」


「おうよ!」


 くっ。都合よく諦めはしないか。


 今使ってるスキルが切れたところでまだまだ手はあるが。しかし、なぜか俺の情報が漏れていることもあるし、今後のためにもこれ以上手を明かしたくない……。


 やはり根気強く逃げるしかないか?


 そう、内心で深くため息を吐いたその時だった。


 ――俺の行く先に現れる、二つの人影。


「ッ新手……! 回りこまれたのか!?」


 こいつら、思ったより頭使えるやつだったか? 挟まれるとは……!


 そんな俺の動揺が伝わったのか、腕の中の少女が震える声を漏らす。


「……ぁ、いや。置いてかないで……」


「だから。捨てはしないと……――」


 ――こいつ。


 汚れや擦り傷だらけの顔で、なんて表情しやがる……。


 絶望の中で、望みが薄いと確信しながら縋るほかない、小さな小さな弱者。


 ああ……腹が立つ。昔を思い出す。


 そうだ。悪いのは全部、金がないこと。こいつがこうなってるのだって結局はそれだ。


 逆に言えば。


 ――金さえあれば、どうにでもなるんだ。


 ああ忌々しい。こんな腐った世の中にも、ここで俺が身銭を切らねばならんことにも……全部に腹が立つ……!


「だが、いま一番腹立たしいのは。こんなとこまでしつこく追ってくるゴミども……。こいつらを蹴散らせるって言うなら、多少の出費は――!」


 いま幾ら持ってた? いや、幾らだろうと、最悪有り金すべて使ってでも――。


 と。茹った頭で、そう思った瞬間だった。


 頭まで外套に身を包んだ、前方の闖入者たち。薄暗い路地裏で、フードの中の顔が見えるまで接近した俺は。


 ――その意外な容貌に、思わず足を止めてしまった。


 そして掛けられる声。




「――ほら、やっぱり! この顔……ほんとうに懐かしい」


「うわっ……ほんとにいましたね。しかも、なにか薄汚い輩に追われてますし」




 二人とも……まだ成人して間もないくらいの少女?


 俺の顔を認識した途端、バサリとフードも脱ぎ捨てて。


「久しぶりだね、ヴィクターさん」


 一人は抜き身の剣を片手に持つ、長い黒髪のスレンダーな少女だ。


 そして、もう一人。


 金色の髪を首元で揃えた、いかにも貞淑そうな少女。分厚い外套を押し上げる豊かな胸は、まだ十八くらいだろう幼さの残る顔と不釣り合いだった。


「再会早々……。貴方はいつも私に面倒ごとを押し付けてきますね……ッ」


 ……こいつら、どっちも只者でない空気を……。


 だが。


 ――いったい、どこのどいつなんだ?




「うわっ、最低なんですけど! この人……私たちのこと忘れてませんかっ?」


「……ひどいなあ。覚えてない? ほんとに? 私のことも?」



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