第22話 美少女たちと同じテントで寝る
野営をすることになった。重力トラップがあるため、寝ずの番は不要だ。
――が、別のトラブルが発生していた。それは……
「あのぉ~……キャラバットさん?」
「なんでございましょう、はい?」
このおっさん、かわいらしく首をかしげるのをやめてくれ。おっさんがそんな挙動をするな。
「なんで……テント、俺とリィナとノエル、三人で一緒に使わないといけないんですか……?」
キャラバットさんは護衛である俺たちのテントも用意してくれていた。だが、与えられたのは一つきりだ!
つまり若い男女が同じテントで一夜を明かすということ。……不健全極まりない。
「しょうがないです、冒険者様のテントはパーティ毎にしかご用意しておりませんでしたのでぇ、はいぃ~」
「じゃあギンコさんのとこは、なんで男女で1つずつあるんですかっ!?」
銀の剣には男女別のテントがあるのだ。
「パーティの人数が違いますからねぇ」
「同じようなもんだろ人数的には……」
俺らは三人組、銀の剣は五人だ。
「いやはやすみません、ワタクシお節介ジジイだもので、はい」
「なんですかお節介ジジイって……」
「くっつけたがるわけです、はい!」
「だからどういう意味で……」
「では……!」
ばびゅんっ、とキャラバットさんがすさまじい速さで去って行った。くそ……。
……どうする。
「「…………」」
リィナとノエルは顔を赤くして、もじもじしている。仲間とはいえ、年頃の男と同じテントで一夜を明かすなんて普通は嫌だろう。
「あー……うぉほん、君たち」
見かねたのか、ギンコさんが話しかけてきた。助かる……。
「もしよければ、私のテントに泊まらないかい?」
「! そうか、なるほど……!」
つまり、女子チームのテントにリィナとノエルが泊まる。あるいは、銀の剣の男メンバーのテントに俺が泊まる。
どちらかにすれば問題は解決する。
「! ぜひ!」
ギンコさんが顔を赤くした。
「あ、いや……その……」
わたわたしている。なんでだ……?
「が、ガイア君……が、そういうの……なら……その……あの……やぶさかでもないというか……」
「はい! ぜひ!」
「ふぇええ……!」
いつも凜々しいギンコさんが妙な声を上げた。目があっちこっちさまよっている。なにかに動揺している。
……何に?
「そ、その……じゃ、じゃあ……あ、その……風呂とか入ってないから汗臭いかもしれんが……」
「「ちょっと待てや……!!!!!!!」」
リィナとノエルが肩を震わせて興奮気味に声をあらげた。
「ちょっと【オバサン】」
「……ほぉ、なんだね【小娘】」
怒りをあらわにするリィナ。しかし一切ひるまないギンコさん。こちらも怒っているようだ。な、なんだ……?
「それ、悪いですけど、犯罪ですから」
「ほぉ? なにが?」
「いたいけな男子を自分の部屋に呼び込んで、エッチなことをすることですよ!」
はぁ?! 何言ってんだリィナ!
「ギンコさんがそんなことするわけないだろ、いい加減にしろ」
「ガイアさん! 気付いて! 今貴方は、危機的状況にいるんだよ!?」
「危機的状況……?」
「そう……!」
わ、わからん……。
「落ち着け、リィナ。ギンコさんが男をテントに連れ込む? そんなことするわけないだろ」
「今さっきしようとしてましたっ」
「……? ……え?」
まさか。
「ぎ、ギンコさん……? さっきの話って……ギンコさんのテントに、俺と二人で泊まるってこと……です……?」
「…………」
無言やめて!? 本気なの!?
「…………」
ギンコさんはその場にしゃがみ込む。
「……すれ違いに気付いた、今……! 死にたい……! あぁああああ……!」
小声で何を言ってるかわからなかったが、苦悩しているのはわかった。
「……うぉほん!」
立ち上がったギンコさんが咳払いし、笑う。
「冗談に決まってるだろう? はははは」
「あ、あー! で、ですよねー!」
……やっぱ冗談だったんだ。きつい冗句だぜ。
「この……嘘つきショタコンおばはんめ!」
「リィナ……! おま……なんてこと言うんだよ!?」
ディスりすぎだろ!
「言われもない誹謗中傷はよくないぞ」
「ふぐぅううううううううううううう!」
「なんでギンコさんが傷ついてるんすか!?」
がくん、とギンコさんが膝をついた。
「ち、違うんだ……私は別に……ショタコンじゃあないんだ……」
「わ、わかってますから……大丈夫ですから……冗談だって」
「それはそれで嫌なんだよぉ~……」
なんなんだよぉ~……。
見かねたのか、マジコさんが「ごめーん☆」とギンコさんの襟首をつかむ。
「ギンコどうやら、もう酒が入ってるみたいだし☆ 許してあげて☆」
「あ、な、なるほど……!」
酒が入ってるならしょうがない。前に飲んだときも様子がおかしかったしな。
「帰れ、ショタコンおばはん!」
「……かーえーれ、かーれーれ」
野犬でも追い払うようにリィナとノエルが手をふっている。
「おまえら……相手はSランカーだぞ……?」
失礼すぎる。ギンコさんには世話になっているのに。
「Sランカーである前に、やつも女なんだよ!」
「は、はぁ……」
……まったくついていけない。高難易度ダンジョンをクリアするより、この話を理解する方が難しい。
「ではな、坊主。また明日」
「あ、はい……ブトーさん。また」
銀の剣の男メンバーは一つのテント、女メンバーも一つのテントに入っていった。
「ぶ、ブトーさんちょっと待ってください……!」
「ん? どうしたー、坊主?」
「俺、そっちのテントに止まりたいんですっ。男女混成パーティで、同じテントはまずいんで!」
ブトーさんは首をかしげ、俺とリィナたちを見て目を細めた。
「おまえたち、付き合ってるんじゃあなかったのか?」
「なっ!?」
「そんなわけ無いじゃあないですか!」
「ふむ……そうだったか。ではおれらの……」
ちら、と俺の後ろを見て「ははん」と鼻を鳴らす。なにか察したようだ。
「いやぁ、すまんな、坊主の申し出は却下だ」
「なんでですか!?」
「おれは身体がでかいからな。坊主がきたら、テントが狭くて寝られないのよ。悪いな」
ぽんっ、と俺の肩をたたく。
「ま、据え膳食わねばなんとやらだ。頑張れ坊主」
ブトーさんが去って行った。最後の言葉の意味はわからない。
……わかっていることは、一つ。
振り返ると、リィナとノエルが顔を赤くしながら俺のそばに来て、腕をがっしりとつかんできた。
「「逃がさないよ……?」」
……一体、どうしてこうなったんだ……?
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