第21話 野営準備でサポート無双



 で、だ。

 巨大鼠ジャイアント・ラットの襲撃によって、旅程に遅れが出てしまった。


 本当なら今日中に目的地に着くはずだったんだが、一泊することになった。


 ちょうど馬車も止まっていたし、周囲に遮蔽物のない平原の真ん中だ。

 敵の不意打ちを防げるし、ちょうど良い場所といえた。


「テントを張りますですはい」


 キャラバットさんが、他の従業員に指示を出す。


「あ、待ってください」

「どうしましたか、ガイア氏?」

「テントを張る前に、整地しますね」


 ほえ? とリィナが首をかしげる。


「せーちってなぁに? 聖なる大地的なやつ?」


 ノエルが小さく息をつく。


「……整地。地面をならすこと」


 ちょうど使った氷針アイス・ニードルが残っている。

 それを活用させてもらおう。


加重グラヴ・ブースト


 氷針アイス・ニードルを中心に重力場を発生させる。

 ずんっ……! ずずうんっ!


「こ、これはぁ……!」


 キャラバットさんが、地面に顔をくっつけた。


「地面が平らになったです、はいぃ! すごい……!」

「? 何が凄いの?」


 リィナの問いに、キャラバットさんが身体を起こして説明する。


「地面を平滑にすることで、寝心地をよくするのです、はい!」

「????」


 リィナはまだわかっていない様子だ。


「リィナ。ちょっとこの整地してないところに寝転がってごらん?」

「うん」


 俺が指示すると、リィナがころんと仰向けに寝る。

 彼女はもぞもぞと頭や腰の位置をずらした。


「腰! 頭! あと背中も! ゴツゴツ痛い……!」


「そう! 野営の際に、なーにがネックになるかというと、地面なんですはい」


 キャラバットさんが地面に手を触れる。


「ここは外ですからね。小石が落ちてますし、地面はボコボコしてます。そーんなとこで寝転がったら、今のリィナ氏のように身体を痛めてしまいますはい!」


 ギンコさんがうなずく。


「それは寝不足につながる。寝不足は日中のパフォーマンスを下げる。野営の際は、テントを張る前に地面を平らにしようとするが、これがなかなか難しい。石を全部拾うなんて不可能だからな」

「……なるほど。ガイアの加重グラヴ・ブーストで小石ごと押しつぶせば、拾う必要もなくなるんだ。すごい……」


 まあ、戦闘で活躍しない分、こういうところでちゃんとサポートしないとな。


「ぬぁあああああああ! 欲しいぃいいいいいいい! やはりガイア氏は欲しすぎますぅうううううううううう!」


 キャラバットさんがまた俺に抱きつこうとする。


「リィナシールド、はつどぉおー!」


 リィナが両手を広げて俺の前に立つ。

 キャラバットさんがリィナの胸にぶつかって、ばうんっと弾かれた。


「ガイアさんは……誰にも渡さない……!」

「……リィナ、よくやったわ。まさかあなたの、無駄にデカいだけの乳が役に立つ日が来るとはね」


「えへへっ。……ん? 無駄に? だけ? まいっか!」


 ……ノエルは、どうやらリィナの胸に少しコンプレックスがある様子だ。


「くぅ~。やはり諦めきれないですはいぃ……」

「すんません」


 と、俺はキャラバットさんに謝っておく。期待してくれるのはうれしいが……だからこそ断るのが申し訳ない。


「さ、手早くテント設営といこう」


 ギンコさんをはじめ、銀の剣の皆さんもテント設営を手伝っていた。

 ハイランカーになると雑事をしなくなるもんだが……(まあオクレールたちの話だ)。


 彼女らは戦闘以外の手伝いもしている。Sランクの鑑みたいなパーティだよな、本当に。


 テントも張り終え、あとは寝るだけとなった。


「では見張りの順番を決めようか」


 ギンコさんがパーティメンバー、そして俺たちを見渡す。


「あ、大丈夫ですよ」

「「「大丈夫とは……?」」」


 はて、とみんなが首をかしげる。


「まさか……ガイア君が一人で寝ずの番をするとかいうのか?」

「「そんなの駄目に決まってる……!」」


 リィナとノエルがくっついてくる。止めようという意思はわかる。


「ガイア君。君一人が犠牲になる必要は全くない。我らはチームなのだ」

「そうだぜ坊主!」

「あたしら協力してみんなで見遣りすればいいっしょ~」


 ブトーさん、マジコさん、他、銀の剣の皆さんがうなずいてくれた。

 配慮が感じられて、うれしかった。


「いや、大丈夫です。別に俺一人寝ずの番なんてしません」

「「「???????」」」


「重力場、まだ残ってます。それがトラップになってます。近付いてくる敵がいれば、重力に押しつぶされ、一晩くらいなら動けないです」


 それに、もしやばい敵にひっかかったら(重力場を突破する敵が来たら)、寝ている俺に伝わる。


「「「はぁあああああああああああああああああああああ!?」」」


 銀の剣の皆さんが驚愕していた。


「どうしたんですか?」

「いや……ガイア君。君ちょっと……規格外すぎるな……」

「そうでしょうか?」

「うむ……。一晩中続く結界魔法なんて作れない……よな、マジコ?」


 こくこくこく! とマジコさんが強くうなずく。


「一晩中なんて無理……! その前に結界きれちゃうし! 第一、魔法を維持するには常に意識を集中させ続けなきゃいけない! 寝るなんて無理無理の無理!」

「そうなんですか。まあ、俺の場合、魔法じゃあないんで」


「いやそのほうがおかしいし……! 一晩中持つ重力の結界とか! やばいにもほどがある……!」


「っていわれても、まあできるもんはできますし」


 ギンコさんは感心したようにうなずく。


「ガイア君が嘘をつかない清廉潔白な人物なのは皆もわかってるだろう?」

「そ、そうだけど……いや……まじはんぱないわね……あなた……」


 どうも、と俺は頭を下げる。……まあ、俺は人間じゃあないからな。これくらいのことはできる。


「ガイアさん、本当に、大丈夫? ひとりだけ、寝ないで見張るとか……なしだよ?」


 リィナが不安そうに尋ねてきた。ノエルも口には出さないが、表情で心配しているのがわかる。


「大丈夫。重力結界なんて寝てても維持できるしな。寝ずの番なんてしないよ」

「そっかー! よかったー!」


 またリィナが俺にくっついてくる。

 ギンコさんが「いや、しかし本当にとんでもないな……」とつぶやく。


「まったくです、はい! 野営するのに見張り番がいなくていいだなんて! 前代未聞ですはい! とぉう!」


 またしても、キャラバットさんが俺に飛びついてきた……!

 なんだってみんな、俺にくっつこうとするんだ……!


「ノエルちっぱい盾発動!」


 今度はリィナが、ノエルを後ろから抱っこしてキャラバットさんの前に差し出す。


 キャラバットさんは、ノエルにぶつかる直前で止まった。

 紳士なひとだ……。


「ワタクシはチッパイが好きなのですはい!」

「何言ってるんですかあんた!?」


 突然なんなのカミングアウトだよ!


「でもチッパイ好きなら、触りたいんじゃないの?」

「YESロリータ、NOタッチの精神です……! はい!」


 意味が……わからない……!


「……リィナ。名誉毀損で訴えるわよ?」


 ノエルが冷え切ったまなざしで親友を見ていた。


「難しいことはわからないぜ!」

「……そう。夜道には気をつけることね」

「ありがとー!」

「……純粋なんだから、もう……はぁ……」


 な、なんにせよ、野営することになった俺たちだった。


「やはり坊主がほしいな」

「やっぱガイアっちうちのパーティにいれよーよー」

「……胸の一つでももませてやれリーダー」

「だ、黙れおまえら……! 嫌がる彼を無理矢理引き入れられるわけないだろっ!」

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