私のラブコメにみんなは必要ないの!絶対に!〜親友が誰かに告白するって聞いてたけど、その相手ってまさか……私なんかい!!〜
咲月ねむと
第1章 親友の恋を応援したいだけなのに!
第1話 私のキラキラ高校生活?
「――今日から私は、あの陰キャだった私じゃない! キラキラのJKライフを送るんだ!」
桜の花びらが祝福するように舞う、私立星ノ宮高校の校門前。
真新しい制服に身を包んだ私は、固く、固く拳を握りしめていた。
私の名前は
友達がいないわけじゃない。ただ、クラスの中心で輝くような、いわゆる「陽キャ」とは程遠い生活を送ってきたのだ。
でも、それも今日で終わり。
高校デビュー。なんて素晴らしい響きだろう。
私はこの日のために、ファッション誌を読み漁り、流行りのメイクを研究し、美容院で「垢抜けたいんです!」と涙ながらに訴えた。
その結果が、このふんわりと巻かれた茶髪のセミロングであり、ちょっぴり勇気のいる短めのスカートなのだ。
内心、心臓はバクバクで、手足は生まれたての小鹿みたいに震えている。道行く人がみんな私のことを見て笑っているような気さえする。
(いやいや、落ち着け私! 大丈夫、今日の私は完璧なはず! たぶん! きっと! ……お願いだからそうであってくれぇ!)
脳内で激しい一人ツッコミを繰り広げていると、不意に背後からすっとした、心地の良い声がかけられた。
「茜。校門の前で固まって、どうしたの」
振り返ると、そこに立っていたのは、私の唯一無二の親友、
艶やかな黒髪のストレートロング。切れ長の瞳は涼やかで、雪のように白い肌。
同じ制服を着ているはずなのに、彼女だけがファッションモデルのように洗練されて見える。中学からの付き合いだけど、その美しさには未だに慣れない。
「し、雫! おはよ! いやー、なんかさ、高校生になったんだなーって、感慨にふけってた? みたいな?」
「……そう。早くしないと、遅刻する」
クールな口調でそれだけ言うと、雫はすたすたと歩き出す。
慌てて私はその後を追いかけた。
雫は昔からこんな感じだ。
口数が少なくて、表情もあまり変わらない。でも、ものすごく優しくて、いつも私のことを気にかけてくれる。
中学時代、私がクラスで孤立しかけた時も当たり前のように隣にいてくれたのは雫だった。
新しいクラスの掲示板を見ると、幸運なことに私と雫は同じクラスだった。
(よっしゃ! これで私の高校生活、まずは安泰だ!)
教室に入ると、すでにいくつかのグループが出来上がっていた。
みんな楽しそうにお喋りしていて、まさに「キラキラ」という言葉がぴったりだ。
気後れしてしまいそうな私をよそに、雫は迷うことなく窓際の後ろから二番目の席に座る。
私は自然と、その隣の席に荷物を置いた。雫の隣が、私の定位置なのだ。
「ねぇねぇ、雫。今日からお弁当なんだ! 私、キャラ弁とか作っちゃおうかなーなんて!」
「……茜の作ったものなら、何でも嬉しい」
「そ、そっか! えへへ」
雫の言葉はいつもストレートで、ちょっと心臓に悪い。
そんな風に、これから始まる夢のような三年間を思い描き、私がにやけていた、その日の放課後。
学校近くのファミレス。高校生らしく、パフェなんてものを注文して、私たちは向かい合って座っていた。
「それでね、私、部活は……」
「茜」
私の言葉を遮って、雫が真剣な声で私の名前を呼んだ。見ると、彼女はスプーンを置き、じっと私の目を見つめていた。
その表情は、普段のクールなものとは少し違って、どこか緊張しているように見える。
(え、なになに!? ついに私にも、親友からの真剣な相談イベントが発生する感じ!? キタコレ!)
私はゴクリと唾を飲み込み、姿勢を正した。
「ど、どうしたの、雫? 私でよければ、何でも聞くよ!」
任せとけ!と胸を叩く私に、雫は少しだけ視線を彷徨わせた後、意を決したように口を開いた。
「……好きな人が、いる」
「―――へ?」
一瞬、時が止まった。
今、なんて言った? 好きな人? 誰が? この、雫が?
恋愛なんてものに一切興味がなさそうだった、この親友が?
「ま、ま、ま、マジで!?」
「……うん」
私の大声に周りのお客さんが一瞬こちらを見た気がする。慌てて私は口を両手で覆った。
(やばいやばいやばい! 雫に好きな人!? どこのどいつだそいつは! いやいや、落ち着け私。ここは親友として全力で応援しなきゃ!)
「そ、そっかー! いやー、めでたい! で、どんな人なの!? いつから好きなの!? 告白とか、するの!?」
矢継ぎ早に質問する私に、雫は少し困ったように眉を寄せた。
「……落ち着いて、茜。告白は、しようと思ってる。近いうちに」
「こ、告白まで!?」
これは一大事だ。
私のキラキラJKライフ計画も大事だけど、今は親友の一世一代の恋を応援するのが最優先事項だ。
「わかった! 私、全力で協力するよ! 雫の恋がうまくいくように、何でもするからね!」
私が力強く宣言すると、雫はふっと、本当に微かにだけど、口元を緩めたように見えた。
「ありがとう、茜。……じゃあ、少しだけ、相談に乗ってもらってもいい?」
「もちろん!」
雫は少し考え込むように、ドリンクバーのアイスティーに視線を落とした。そして、ぽつり、ぽつりと、その相手の特徴を語り始めた。
「いつも一生懸命な人。見ていて、飽きない」
(なるほど、真面目で面白い人か。陽キャの必須条件だね)
「少し、いや……かなり騒がしい時もあるけど」
(うんうん、ムードメーカー的な存在なんだな)
「隣にいると、安心する。……太陽みたいな人」
(太陽! わかる! クラスの中心にいる人って、太陽みたいに眩しいもんね!)
私はうんうんと頷きながら、脳内で雫の想い人を想像する。きっと、バスケ部のエースで爽やかな笑顔が素敵な、誰にでも優しいイケメンに違いない。
私とは正反対の完璧な陽キャだ。
「そっかー! すっごく素敵な人なんだね! よーし、俄然燃えてきた! 絶対に、その恋、成就させようね!」
私が再び拳を握りしめると、雫は「……うん」と心なしか嬉しそうに頷いた。
こうして、私の波乱に満ちた高校生活は、親友の恋を応援するという、最高に青春なイベントから幕を開けたのだ。
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