帰国したら愛しの婚約者が婚約破棄され断罪されているが、彼女は俺の婚約者である。
星雷はやと@書籍化決定
第1話 帰国
「はぁぁぁ……長かった……」
俺は花束を抱えながら、馬車の中で長い溜息を吐く。ある事情により俺は母国を離れ、隣国に留学していた。今はその隣国から母国への帰路にある。既に馬車は王都に入り、学園へと向かっているが一刻も早く学園に到着したい。
「三年ぶりに……会える」
抱えている白い花束を眺めながら、愛しい婚約者へと想いを馳せる。俺が早く学園に到着したい理由は、愛しい婚約者が卒業パーティーに参加しているからだ。
俺の婚約者は、リーシア・フェルマート侯爵令嬢である。花束の白薔薇の様に、純粋で美しく聡明だ。そして彼女は存在するだけで大変可愛らしい。家同士に決められた婚約者であるが、幼い頃から心を通わせ良好な関係を築いている。早く彼女の笑顔が見たい。
「間に合わないかもしれないな……」
本来ならば、彼女の卒業パーティーを俺がエスコートする予定であった。しかし道中で面倒な事態に遭遇した為、時間を浪費してしまった。それにより、リーシアをエスコートすることが出来ない可能性が高い。
万が一の事態に備えて、事前にリーシアの兄であるユアンに彼女のエスコートを頼んである。卒業パーティーという華々しい場で、エスコートが無いというのは外聞が悪いのだ。変に彼女を好奇の目に晒すことは極力避けたい。
「リーシアは許してくれるだろうが……」
隣国から、今日の卒業パーティーについて手紙を送った。すると彼女は俺の帰国を喜ぶ旨と、エスコートの件は無理をしなくて良いという返事である。リーシアのは気遣いが出来る女性だ。帰国する俺を慮ってのことであるのは理解している。しかし、婚約者として自分が頼られないのは寂しさを覚えるのも事実だ。
只でさせ、俺の立場によりリーシアとの婚約は公表されていない。俺が帰国した後に、リーシアとの婚約関係を発表する予定である。
少し早いが卒業パーティーでエスコートをする際に、リーシアと俺の関係を知られるのは喜ばしいことだ。
「ノア様、到着いたしました」
「っ! 嗚呼!」
馬車が止まると、従者であるカインが馬車の扉を開けた。俺は花束を抱えて馬車から降りる。
「申し訳ありません。卒業パーティーは、既に始まっております。参加者は全員、大広間に入場済みです。こちらからお入りください」
歩きながらカインが状況を説明する。学院の門には誰も居ないことからも、卒業パーティーが既に始まっていることが分かる。
「いや、気にするな。俺の我儘に応えてくれてありがとう」
申し訳なさそうな表情をするカインに、労いの言葉をかける。
卒業パーティーにどうしても参加したかった俺は、従者たちに無理を言った。護衛をカインだけにして、馬の負担を軽減したのだ。俺の我儘に付き合ってくれた。お陰で卒業パーティーに参加することが出来る。途中からでも、リーシアをエスコートすることは可能だろう。感謝するのは当たりまえだ。
「勿体無いお言葉でございます。どうぞ、楽しいお時間をお楽しみくださいませ」
「嗚呼、行ってくる」
最敬礼すると、大広間へと続く扉をカインが開ける。俺はリーシアとの三年ぶりの再会に胸を躍らせながら、扉を潜った。
「さて、リーシアは何処だろうか」
大広間に足を踏み入れると、輝くシャンデリアと品の良い音楽が出迎えた。大広間に集った人々は、何故か中央部分に注目をしている。そのことを不思議に思いながらも、愛しい婚約者の姿を探す。どんなに人が多くても、リーシアのことは見つけ出す自身がある。
「嗚呼、そこに居たのか……」
大広間の中心にリーシアの姿を見付けた。こちらに背中を向けているが、間違いなく彼女である。婚約者である俺が愛しい人を見間違うわけがない。
銀色の髪に合うように、俺が贈った水色のドレスを身に着けてくれていることが嬉しい。三年ぶりに会う彼女はより一層綺麗になっていることだろう。早く会って彼女の顔が見たい。
俺は一歩足を踏み出した。
「リーシア・フェルマート侯爵令嬢! 僕は君との婚約を破棄する!!」
不愉快な声が響いた。
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