Ep.05【01】「雨の惨劇」
雨が降っていた。
もう何日目だろうか?
リオが飲みかけのコーヒーを片手に窓の外を見る。
外はすでに夜の帷が降り、静かに降る雨と水滴に反射するネオン光。
時折聞こえる車の走行音だけが世界を支配していた。
セスティアは食事が終わると早々に部屋に戻った。
ステラは奥のキッチンで片付け中。
ハヤテはファントムのメンテナンスでガレージへ。
リオだけがポツンと自席で琥珀色の飲み物を嗜んでいた。
平穏なんて案外こんなもんかな・・・
ひとりごちて、グイっとコーヒーを飲み干した。
ノヴァ・トーキョー内回り環状線。
日々多くの乗降客を運ぶ、この街の大動脈。
無人で運行するN-552 No.3329号車はいつも通り、多くの客を乗せ運行していた。
数日続く雨のため、運行スケジュールに若干の誤差はあるものの
運行そのものには影響は無く、順調に各駅舎へと車輪を走らせていた。
『次は終点シブヤ、シブヤでございます。
ギンザ方面、ハンゾモン方面へおいでのお客様は・・・・・・・・』
車両が減速し、いつも通りの自動音声が車内に流れ、一斉に乗客が立ち上がった・・・・・
その瞬間
車両があり得ない急加速をし、乗客たちが次々に倒れこむ。
窓の水滴が後方へと激しく飛び散る。
雨に曇る都会の灯が猛スピードで飛び去っていく。
車内で無数の悲鳴があがり、騒然となるが車両はその意図を介さないように
その速度を落とさず、鉄輪がレールを切り裂き、唸りを上げ、更に加速を続けた。
中央シブヤ駅 南6番ホームに立っていた駅員は異様な光景を目の当たりにする。
何時もなら減速し、入構する車両が雨を突き破り、猛加速を続け突入してきたのだ。
「危な・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!」
駅員は声を終える事が出来なかった。
N-552 No.3329号車は、その勢いを緩めること無く、南6番ホームに突っ込み
止まっていた先行車両の後方に最大加速のまま突入した。
巨大な金属同士が激突する轟音と無数の破片と火花が瞬時に飛び散る。
車両は力任せに潰された箱のように大きく変形しながら、上へと強引に捻じ曲げられ
猛烈に回転し、多くの乗客が待つホームへと降り注いだ。
轟音を共に巨大な金属の塊が無秩序に襲いかかる。
何かが破裂する音、スパーク音、悲鳴、怒号・・・ありとあらゆる音が入り混じる。
だが、無惨に潰れ、原型を留めない車両からは何も聞こえなかった。
『・・・・・・・このように、中央シブヤ駅周辺は大混乱に陥っており・・・・』
ネットニュースのアナウンサーが中継映像で息を切らし、興奮気味に喋っていた。
ハヤテは音声を下げ、3人に向きあう。
「まぁ、これが昨日の夜に発生したシブヤ駅の事故なんだが・・・・」
ハヤテがホロ・ディスプレイをコンコンと叩きながら説明する。
リオとセスティアは朝食を摂りながら話を聞いていた。
ステラはコーヒーポットを持ちながらテーブル横で待機。
「昨日の夜から、ずーっとこのニュースやってるわねぇ」
リオがトーストをちぎり、口に運びながら言う。
「SNSでもこればっかだよー・・・・みんな事故だーとかテロだーとか」
セスティアは付け合せのウインナーを美味しそうに食べながら。
「NTPDもNTRW(鉄道会社)も、まだ全容を把握してないようです。
死傷者も全く不明なようで・・・・・」
ステラは心痛な面持ちで語った。
「ま、表向きはな」
ハヤテはディスプレイの表示を変える。
「え?どういう事よソレ?」
リオがトーストを食べ終え、ハヤテを見た。
「NTPDからの緊急要請だよ」
ハヤテがディスプレイに映し出された文字をコンコンと叩いた。
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