Ep.04【11】「美しいかなしみ」






優しい風が吹いている。

 

潮風に吹かれ、ハマナスの鮮やかな赤色がユラユラと揺れる。

小高い丘は大海原を仰ぎ見、遠く水平線を臨む。

   

セスティアは静かに安らかな眠りを妨げぬよう、丁寧に歩を進める。

その歩先は迷うこと無く、目的の場所へと向かっていた。

   

無数の白い墓標が整然と建てられ、セスティアの他に誰も居ない。

風の音と足音だけがただ聞こえるだけ。

  

 

白い・・・まだ真新しい墓標の前で歩みを止めた。

 

  

  

        【 Here lies Sister - Luna 】

        (シスター・ルナ 此処に眠る)

  

   

  

それだけしか刻まれていない簡素な墓標。

  

何度ここに来たことだろう。

何も変わらず、何も語らず、ただ墓標は黙する。

セスティアは腰を降ろし、真白な石碑に微笑みかけた。

 

「ごめんね、ルナ・・・また来ちゃった」

  

時折、陽が雲に遮られ、その影を落としていた。

俯き、何かに懺悔するかのよう。

 

「アタシ・・・また泣いちゃった。

ルナの事・・・もう泣かないって約束したのに・・・・破っちゃったよ」

 

風が吹き、髪が揺れる。

 

沈黙が続き、風切り音だけが聞こえる。

  

「・・・・・まだ、癒えてないのかな・・・・・・弱いね・・・アタシ」

  

ふと、遠くで小鳥の鳴き声がする。

雲が流れ、ふたたび緑の丘に陽が差し込んでくる。

 

「でもね、アタシに家族が出来たんだよ。

ティナお姉ちゃんとは別のお姉ちゃんと・・・なんと妹まで出来たの!

ルナ・・・・あたし、お姉ちゃんだよ!ビックリしたでしょ!!!

あと、ちょっと口煩いけど、すごく頼りになる・・・・

ん~・・なんて言えば・・・・・・・そう!お父さんみたいなヒトも!」

 

雲の合間を縫って、やわらかな陽射しが差し込む。

 

「だからさ、毎日楽しくやってるよ・・・・・・・・・心配しないで・・・・ルナ。

   

今度・・・・・今度・・・・みんなでルナに会いに来てもらうよ。

もしかすると、ちょっとうるさいかもしれないけど、その時はゴメンね!」

  

セスティアは精一杯の笑顔で話しかけた。

 

 

だが、墓標は何も語らない

ただ、差し込む陽の光を浴びて、微笑んでいるように見えた。

セスティアは手にした花束を墓標に添え、立ち上がる。

  

 

「じゃあ・・・・ルナ・・・・・・・いってきます!」

  

  

そう言い残すと、一度も振り返らず立ち去っていった。

ハマナスの花が優しい潮風の中、ユラユラと揺れ、手を振るかのようだった。

  

   

  

   

  

「たっだいまーっ ♪」

セスティアが事務所のドアを元気に開けると、何時もと雰囲気が違っていた。

リオがいつもの自分の席に座り、眉間にシワを寄せて腕を組んでいた。

ハヤテは何故か呆れ顔。

ステラはにこやかな笑顔に見えるが、何処か苦笑ぎみ。

いまいち状況が解らないセスティアが事務所に踏み入ると・・・・

 

「ティア・・・・・ちょっとお話があります。そこにお座りなさい」

 

リオが何時もとは全く違う口調で告げてきた。

「え?・・・・なに??なに???」

戸惑うセスティアを即すかのように、リオが机をバンバンと叩く。

訳が分からないまま、セスティアは何時もの自分の席に座った。

  

沈黙が事務所を支配する。

  

セスティアの脳裏に超高速で色々と過る。

 

姐ぇさんのとっておきのコーヒー豆こぼした事バレた?

それとも、こないだファントムちょっと擦った事?

う~~~~~っん・・・・お風呂の長湯の事かな?

あっ! まさか・・・3日前、お風呂の途中でトイレ行くのが面倒くさくて・・・

イヤイヤ!ちゃんとシャワーで流したし!!!!

あ!あれだ!すーちゃんお手製のチョコケーキ全部食べた事だ!!

  

とにかく色々とありすぎて、皆目見当がつかなかった。

リオがジロッとセスティアを睨み、口を開く。

 

 

「ティア・・・・・・あんた、スーにキスしたんだって?」

  

 

「は????????」

 

想定していた事と完全にかけ離れた内容で頭に入って来なかった。

何時だろ・・・・???セスティアは完全に忘れていた。

リオが口火を切る。

 

「ティア!!なに勝手にキスなんてしてんの!!!!!

あなたをそういう風に育てた覚えはありません!!!!!!!!」

 

立ち上がり、机をバンバン叩きながら激昂するリオ。

あ!・・・・っと思い出す。

そう言えば、試乗の時にステラがあまりにも心配そうな顔してたから

何となく反射的にチュッってしたかも・・・・・

思い出し、手を ポン!と打つ。

セスティアはおもむろに立ち上がり、リオの顔の前にまで接近し・・・・

  

 

チュッ♥

  

 

リオの唇にキスをした。

思わぬ事で動転し、真っ赤な顔で両手で口を塞いで後ずさるリオ。

 

「えっと?これでいい?」

  

セスティアが事も無げに言った。

「・・・・・いや、絶対違うと思うぞ・・・・・・」

一部始終を見ていたハヤテが思わずツッコむ。

ステラは苦笑し、何も言えなかった。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」

 

リオは何か文句を言いたい顔をしていたが、言葉に出来なかった。

  

 

そして、その後約一時間以上・・・・セスティアはリオの説教を聞かされる。

説教が終わり、気の緩みからか、セスティアは先程の思い出した悪事を

ポロッっと白状してしまい、さらなる説教が続いた。

  

罰として、今夜の食後のデザート抜きの沙汰を受ける。

たくさんの果実が入った甘いあまいフルーツポンチをセスティアは

ついぞ食す事が出来なかった。

  

  

  

 

Ep.04

 

 

 


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