Ep.00【04】「洞」
「ん?なに?連中蛇行してない?」
リオは先行するバンの挙動を見逃さなかった。
「はい。約39秒前に被疑車両内から悲鳴のような声が観測されました。
推測として被疑者内で何らかのトラブルが発生したと思われます」
「仲間割れ?」
「現在の情報上では確定的な判断は出来ません。
緊急プロトコル225-Fを継続しますか?」
「当然!ここまで来て逃がしてなるもんですか!!」
「了解。現場責任者 リオ巡査の要請により緊急プロトコル225-Fは継続されます」
「絶対・・・・逃さないんだから」
リオは独り言のように呟いた。
次の瞬間、先行するバンが左右に蛇行し、ガードレールに車体を激しく擦りつけながら車体右側を完全に浮かせ横転した。
制御を失い、けたたましく地面を削りながら、左側の廃墟と化した工場に呑み込まれていく。
「緊急事態発生。追跡対象に重大事故発生。
緊急プロトコル225-Fを中断し、以降緊急プロトコル877-Eに移行します」
018は事故に動じる事もなく、淡々と告げる。
「ここで確保する!018!用意して!」
リオのルビー色の瞳に光が宿った。
二人を乗せたパトカーが廃工場に滑り込み、状況を確認する。
工場の正面ゲートから横転し回転しながら侵入したバンは、あらゆる箇所から煙を吹き
原型を留めないほどにまで破壊され、シャッターが開け放たれた工場の倉庫前で擱座していた。
周辺に動くものなし・・・リオは瞬時に状況を把握する。
リオと018はパトカーを阻塞にしつつ、周囲を注意深く警戒した。
「018、観測ドローンで内部偵察を実施」
「了解。ドローン1~3番まで周辺区域の偵察を実行します」
パトカーの後方ハッチから5cm程度の円盤型ドローンが音も無く飛び去っていく。
「被疑車両に接近。偵察開始」
リオの手にはハンドブラスターが握られていた。
このまま銃撃戦になるのか?
それとも、呆気なく幕切れになるのか?
そんな思考がリオの頭の中で錯綜する。
「確認。被疑車両内に2名を確認。IR・聴音・動態観測から死亡もしくは停止状態と思われます」
幕切れのほうか・・・・リオはホッとしたような、何か複雑な気分に苛まれた。
そんな時、ポップアップしたホロ映像で犯人の情報が本部から告げられる。
「容疑者の特定が完了しました。容疑者は3名、以下情報を参照されたい」
そこには3名の男の画像と氏名・年齢・経歴・逮捕歴などが展開されていた。
3名の内、2名は普通の人間男性。
ただ・・・・・もう一人は異彩を放っていた。
◯ 容疑者 No.03 ガリル”バッヂ”プライズ (35)
身長 226cm 体重 180kg(サイバネティクス手術前)
元米陸軍兵長
逮捕歴・・・・・・・・・・・・
そこに写っていたのは、軍務中のバッヂの姿と近年逮捕時の画像。
その姿、言ってしまえば全身の7割を強化・改造し、元の姿は見る影もない。
人らしい部分が残っているのは顔くらいにしか見えなかった。
ただ、こういう事は珍しくもない。
戦争が無人兵器とドロイド中心へと変化し、逆に人類が新しい戦争に対応せざるを得なくなり
その結果、職業軍人の中には過剰なサイバネ化を行う者まで出現したのだ。
恐らく、このバッヂと呼ばれる犯人もその一人なのだろう。
「被疑車両内には2名のみ。被疑者 ガリル”バッヂ”プライズは確認出来ません」
018がドローンからの情報を告げた。
これだけの大事故でも即座に脱出が出来るという事は・・・・リオに戦慄が走った。
「ドローンを倉庫内に侵入させて偵察を続行して」
「了解」
時間にすれば数秒の事だろう。
無限に感じる時間が過ぎていった。
「ドローン1で被疑者ガリル”バッヂ”プライズと思われる人物を発見しました。
倉庫内中央で静止しています。IR・聴音・動態観測で生存を確認」
「018、倉庫内は?」
「約30m四方を囲んだモルタル外壁です。倉庫内には目的不明の投棄機材等が
多数散乱しています。倉庫内及び併設事務棟に一般人は確認出来ません。
倉庫内情報を共有します」
即座にリオの右胸上方にホロ画面が現れ、敷地内の詳細情報が表示される。
今夜は新月なのか、周囲は暗闇に溶け込み、倉庫内はより一層暗い洞に見え、侵入する者を阻んでいるようにも感じられた。
洞に潜むは、人か怪物か。
静寂の中に、狂気の気配が滲み出していた。
──続く。
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