すとれいキャッツ!!

JM117

Ep.00【01】「命令と従属」




星が流れている。赤、青、黄、白・・・ピンクや淡い緑も混ざっている。

窓に映る光は、ビルの照明や看板の反射。

──ただの都会の夜景。

  

「・・・・さ・・・・・んさ・・・・・・リオ巡査!」

 

運転席を見やると、相棒のドロイド警官「018」がこちらを見ていた。

「ん?どうかした018?」

「リオ巡査を43秒呼びましたが反応なしです。体調不良ですか?」

「ううん、体調は良好。ただ、退屈かな」

どうやら1分近く、流れる夜景をぼんやり見ていたようだ。

目の前の景色も、任務も、ただの退屈な日常。

  

 

           だが、この平穏は長くは続かない。

 

  

「定時パトロールプロトコル472-Bを実行中です。引き続き警戒任務を」

「警戒任務ねぇ・・・毎日同じ時間にパトロールしてたら、悪人だって余裕で隠れるんじゃない?」

「プロトコル472-B、巡回速度を維持。違反行為を検知した場合は即時報告を」

「わかってるって」

「我々の任務は人々の安寧を――」

「あーっ!はいはい、そういうのはいいから!ったく融通の利かないヤツ」

  

018の任務理念を食い気味にかき消す。

窓には無数の光が流れていった。

 

ここはノヴァ・トーキョー。かつて東京湾と呼ばれた人工島に作られた都市。

大震災や富士山の噴火により旧東京都は壊滅、西暦2300年頃に復興した人工都市だ。

その陰には無法地帯となった旧東京市街「オールド・トーキョー」があり、

NTDF(軍)とテロ集団の戦闘が日夜繰り返されていた。

しかしリオにとって、それは生まれる前から当たり前の光景。

   

時は西暦2522年。人類、ドロイド、そして「シスター」

百年前、デジタルネットワークから生まれた新しい人類で、見た目は普通の人間と同じ。

だが全員女性で、老化は20代後半で止まる。

恋愛や結婚は可能だが、子を生むことはできない。

シスターたちは「カテドラル」と呼ばれる施設で生み出され

当初は脅威と見なされたが、やがて社会に溶け込む。

リオもそのひとりで、人々を守るためNTPDに入隊した。

しかし・・・現実は退屈なルーティンワークばかりで、精神をすり減らす日々だった。

   

 

  ── 平穏な日常の裏で、非日常がまさに今、静かに迫ろうとしていた。 ──

  

 

018の運転するパトカーは工業地帯へ。

無機質なビル群を抜け、018は淡々と本部への定時連絡を送る。

リオは赤髪を束ね直しつつ、防犯灯に照らされたビルを退屈そうに眺める。

「PC-044より本部。プロトコル472-B実施中。東地区 ニイハマ4号を北進中。異常なし」

 

今夜も何も無いと思ったその時・・・・・!

 

「A&G製薬」の看板が輝く社屋の前を、一台の黒いバンが猛スピードで駆け抜けていった。

タイヤはけたたましく鳴り、直後に警備用ドロイドと思われる2体が飛び出し

逃走するバンにブラスターガンを乱射する。

  

それは運命のベルが鳴った瞬間だった。

   

   

  

  

       ── 退屈だった日常が、今、音を立てて崩れ去った ──




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