仲間殺しの勇者、ハーレムでうやむやに〜あの世で異世界スローライフ配信でもしてろジジィ〜
蝦夷なきうさぎ
第1話 説教ジジィの最期
宿屋の夜は静かだった。
仲間たちは深い眠りにつき、外では虫の声さえ聞こえない。
…はずだった。
「…ヴェイル」
背後から、耳障りな声が落ちてきた。
振り返ると、ランプを片手にした賢者オルフェンが立っていた。
補助魔法と知識だけは一流だが、戦闘はからっきし。
それでも長年パーティを支えてきた、そして……誰より口うるさい頑固ジジィ。
「お前、邪神に魅入られているな?」
「……またかよ」
「またではない!」
オルフェンは唾を飛ばしながら近寄ってきた。
「今日の戦いでも見たぞ! 剣から立ちのぼる黒い靄!
昨日は“血は美しい”、一昨日は“闇よ燃えろ”、その前はパンを二つ食って“闇に消えた”!
勇者がそんな言葉を口走るなど前代未聞だ!
剣の角度は甘いし、飯は犬食いだし、寝相は悪いし、歌声は音痴だし!
勇者としての自覚が足りん!」
(……また始まった。訓練の後に小言を言うだけなら我慢できた。
でも、なんで真夜中にまで説教を聞かされなきゃならないんだ……)
「聞いているのか!? 邪神はお前を——」
「うるせぇぇぇぇぇっ!!」
胸の奥で黒い何かが爆ぜた。
剣先から迸る漆黒の閃光が、オルフェンの胸を貫く。
「なっ……馬鹿な……」
頑固ジジィは驚愕のまま床に崩れ落ち、白髭を血で染めた。
その声は、二度と響かない。
「……違う! 俺は殺したくなかった! 守ろうとしただけなんだ……!」
—記憶がよみがえる。
戦いの後は「突きが甘い!」「呼吸が乱れている!」と説教し、
焚き火の夜は「食べ方が汚い」「寝相が悪い」と小言を止めない。
鬱陶しいことこの上ないが、それでも。
罠を見抜いたのはオルフェンだった。
毒矢を抜き、止血したのもオルフェンだった。
仲間全員の体調を一番よく見ていたのも、オルフェンだった。
大事な仲間だった。
失いたくなかった。……そのはずだった。
けれど。
魔物の群れに囲まれた夜。闇が囁いた。
〈力を使え。そうすれば守れる〉
剣に黒い靄をまとわせ、一閃で敵を吹き飛ばした時。仲間が無事でいることに、俺は安堵した。
「守れる」
「仲間を救える」
—そう思った。
だが気づけば、守るためだったはずの力に、俺自身が酔い始めていた。
束の間の回想を終え
罪悪感と同時に、背筋を走る快感。
胸の奥で甘美な囁きが響く。
〈いいぞ…その血を吸い、もっと力を〉
俺は血に濡れた剣を握りしめ、笑みをこらえきれなかった。
その時、廊下から足音。
バンッ、と扉が開く。
戦士セレス、盗賊シェリス、聖女セラフィナ、魔導士アルマティア。
仲間たちが駆け込んで、血まみれの俺と倒れたオルフェンを見た。
「ヴェイル!?まさか……!」
血の匂いに凍りつく空気。
そして、次々に証拠が目に入った。
•剣の血痕 → オルフェンのものと一致。
•床 → 黒い焦げ跡。闇魔法の痕跡。
•オルフェンの指先 → 死に際に血で頭文字の“V”の字を刻もうとした形跡。
•机の上 → 「ヴェイル怪しい」と殴り書きされたメモ。
証拠フルコンボ……どう見てもヴェイルじゃん……
沈黙を破ったのは、俺自身だった。
「……ふむ。証拠は多い。だがまだ決めつけるのは早計だな」
「はぁ!?」と仲間全員が心で叫ぶ。
「ここは探偵ヴェイルとして、個々に聞き取りを行うべきだ。一人ずつ呼び出して、あの夜なにをしていたか……詳しく聞こうじゃないか」
仲間全員
(いやいやいや!聞くまでもなくお前だろ!!
でも…言えない…言ったら勇者が…旅が…)
セレス「……わかった。協力する」
シェリス「は、はい……」
セラフィナ「神もお導きになるでしょう」
アルマティア「フフ……尋問劇、楽しませてもらうわ」
こうして。
血に濡れた探偵ヴェイルによる、滑稽な聞き取り調査が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます