第32話 幹部会議

 昼食後に仕事を始めようとすると僕の呼び出しがある。

「俺はいいのか?」

「はい。クエル伍長をお呼びするようにとのご命令です」

 ジョイス什長の確認に対して派遣されてきた兵士が答えた。

 命令とあらば応じないわけにはいかないので兵士についていく。

 連れていかれたのは会議室だった。

「こちらでお待ちください」

 細長いテーブルの端の席に案内される。

 テーブルの両脇に3つずつ、奥に1つ椅子が空いている。


 少し待っていると主席百人長が次々とやってきて席についた。

 お互いに挨拶しながら僕のことを怪訝そうに見る。

 最後にアイリーンさんを連れてローフォーテン将軍が入ってきた。

 緋色の軍服を着た姿はとても凛々しくランニングをしていたときの親しみやすい感じはない。

 1番奥の席に将軍が着座し、僕から見て右手の将軍に近い席にアイリーンさんが座る。

 すぐに将軍が会議の口火を切った。

「急に呼びたててすまない。すでに聞いている者もいるだろうが、我が軍の兵士3名による住民への集団暴行事件が発生した」

 驚く人が多い中で1人の百人長は唇を噛みしめ下を向く。


「被害者は15歳の少女だ」

 一斉に呻き声があがった。

「それでは緊急警備態勢を取らなくては。暴動が起きますぞ」

 1人の百人長の発言を将軍が手を挙げて制止する。

「被害者は全身を撫でまわされ、唇を奪われ秘所に指を入れられたが、不幸中の幸いにしてそれ以上の行為は我が軍の別の兵士により阻止されている。そして、寛大にも被害者は条件付きで被害を胸に収めてもよいとのことだ」

 百人長さんたちは少しほっとした様子になった。

 将軍は声を強める。


「被害者がそう言っていることは多少は住民感情を抑える効果はあるかもしれない。しかし、だからといって事件を無かったことにはできん。諸君を集めたのは犯人3名の処分について意見を聞くためだ。何か意見はあるかね?」

 唇を噛みしめていた百人長が顔を上げた。

「恐れながら申し上げます。この度は部下が不始末をしまして申し訳ありません。許しがたい犯罪ではありますが、途中で阻止されたことを考慮し罪一等を減じて頂けないかと存じます」

「逆に言えば阻止されなければ続行したということだ」

「こう言ってはなんですが、供述内容に間違いはないのですか。条件付きで告発しないということは、美人局の可能性もあります」


 さっきの将軍の言葉には一部分からないことがあったけど、百人長の言っている美人局は分かる。

 少しでも知らない言葉が減ったことは嬉しかった。

「その心配はもっともだな。だが、主要な関係者の尋問にはトルゥースセイヤーに入ってもらっている。知っていると思うが彼らは出来高払いだ。結構な金額をかけて確認してある」

「……しかし、処刑ということになれば我が軍の将軍は快く思わないでしょう」

 ローフォーテン将軍は冷たい笑みを浮かべる。

「今までの発言は部下を案ずる上官の温情ということで聞いていたが、最後のものは許容できんな。いっそのこと、ガルブレイス侯爵の名を出した方が早いのではないかな。いずれにせよ私は斟酌はしない。そもそも私は事前に警告したはずだ」

 今や将軍を相手に論陣を張っている百人長は脂汗を浮かべていた。


 将軍は他の百人長に視線を向ける。

「1人ばかりに聞くわけにはいくまい。他に意見はないか?」

 アイリーンさんの隣の人が手を挙げた。

「我が軍の公正さを示すためには公開での処刑はやむを得ないでしょう。内々に処置したのでは庇ったと思われるでしょうからな」

 脂汗を流している人の隣の百人長が口を開いた。

「本題の前にお聞きしたい。この場は主席百人長以上の者が参加する会議のはず。彼が参加しているのはどういうことでしょう?」

 その人は僕を指さして質問する。


「では逆に問うが貴公が共同作戦に派遣されていて、友軍に同じようなことが起きたときに事後報告で納得するかな? 彼の階級は確かに伍長だが王国軍の最高階級でもある」

「その点は理解しました。ただ、そうなると王国軍が協力するのはいいですが、たった3名、しかもこんな低い階級の者を送ってくるとは帝国を軽んじているのでないですか?」

 お、常々僕も疑問に思っていることの答えが聞けるかもしれないぞ。

「それは今日の議題ではないな。その正当性を論じるには時間が足りないだろう。ただ、そうだな、1つだけ言っておこう。王国軍は3名だが、それに数倍する働きをしてくれている。先日の戦いの際に彼より前に敵と刃を交えた者がどれだけいる?」

「それは仰る通りです。分かりました」


「では本題に対する意見を聞こうか」

「敵地での暴行事件とあれば、早急に関係者を処分するのは合理的な判断と思います」

 ローフォーテン将軍は他の百人長を見回した。

「他に意見はあるか?」

 残りの百人長たちも処分はやむを得ないという意見を述べる。

「クエル伍長。何か意見はあるかね?」

「ありません」

 さすがの僕だって、この場にいる百人長たちに歓迎されていないということぐらいは分かった。

 なので、余計なことは言わない。


「では、結論を出そう。実行犯3名は明日の昼に町の広場で絞首刑とする。貴殿たちからは改めて各員に綱紀粛正を呼びかけてほしい」

 将軍が宣言する。

 百人長たちは一斉に反応した。

「了解しました」

 会議が終わって百人長たちが退出したので僕も一緒に部屋を出ようとする。

 そこでアイリーンさんに呼び止められた。


「急に呼び出して悪かったわね」

「いえ、座っているだけでしたので」

「しかるべきときに黙っているのも大切なことよ」

「どういう振る舞いをすればいいか事前に教えて頂けていたらもっと落ちついていられたのですが」

「それはすまなかったわ。兵士に伝言させるわけにもいかなくて」

「それで、何か御用でしょうか?」

「ああ。明後日に将軍がこの町の後背地の視察に出る。それにクエルにも同行するようにとのことよ」

「畏まりました」


「ちなみに参加するのはクエル1人でいいわ。ジョイス隊もあなたの部下2名も同行不要だから」

「分かりました。要するに王国軍のトップの肩書きが必要というわけですね。僕では役者不足ですけど精一杯頑張ります」

「まあ、そんなところね。では、昼間の第1歩哨時間の始まり頃に呼び出すわ。儀礼用の鎧の着用しておいて」

「はい。準備をしておきます」

 返事をすると書類に何かを書き込んでいた将軍が顔を上げて声をかけてくる。

「いつも負担をかけて悪いな」


「いえ、将軍のお役に立てるのであればこの程度のこと負担でもなんでもありません」

 その途端に将軍は顔を下に向けて書類を読み始めた。

 忙しい将軍の邪魔をしてはいけないと部屋から出る。

「クリスティーヌ。呆けてないで仕事をしてください」

 扉が閉まる前にアイリーンさんの声が聞こえる。

 将軍も疲れが溜まっているんだろうなと想像して、僕ももうちょっと役に立てるようにならなくちゃと思った。


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