第18話 強さ談義

 食堂での夕食時には誰が強いのかという話題になる。

 先輩たちはジョイス什長は剣を使わせるとかなり強いと言っていた。

「うちの隊じゃ、1番かもな」

「そうだな。よその什長も強いけどな」

「なので伍長。負けたのはクヨクヨしないことだ」

「はい。でも、やっぱり悔しいです。僕、強くなりたくて」

「そうか。頑張れよ。だけど、うちの什長は目標としてはいいかもしれないな。まだ、人間の範疇に収まってるから」

「もっと強い人というと百人長さんですか?」


 ジョイス什長は一瞬ためらいをみせる。

「俺の口から言うと自慢ぽいが、まあ、剣なら俺の方が上だぜ」

「そうなんですか?」

「ほら、什長ってのは面倒をみるのはこれぐらいだ」

 周囲の面々を手で示した。

「目が届く人数だろ。それにいつもつるんでいるし気心は知れている。百人長だとそうはいかねえ。隊全体の指揮もするし、上からの命令を具体的な作戦にする。頭が良くないといけないし、人望も必要だ」

「ジョイスさん、これだけ慕われているじゃないですか。僕も尊敬してます」


「うお」

 什長は片手で両目を覆う。

 もう一方の手で肉に絞っていたライムの汁でも飛んだのかな?

「ありがとよ。まあ、俺もそういう面は悪くはねえと思うんだが……」

「什長は変なところが思い切りが良すぎてな。上をいつもハラハラさせるんだ」

「それに妙に間が悪い」

「で、怒られが発生する」

「だから、百人長にはなれないし、なりたくもない」


「だな。俺は什長が似合ってると思う。俺の器量で百人長になったら、即軍法会議もんだ。というわけで、剣の腕前と階級は直接は関係ないのさ」

「そうなんですね。僕を鍛えてくれた訓練部隊のハリー隊長は凄く強かったんで、そういうものかと思ってました」

「そうなのか。確かに、中には階級も高けりゃ、化け物みたいに強いのもいる。クエル伍長が一目惚れしたアイリーン近衛隊長もそうだな」

 僕は慌てて両手を前に出して振った。

「違いますよ。そんなんじゃないです。もうやめましょうよ。この話題」

 ジョイス什長を止めようとするが、笑みが大きくなる。


「まあ、いいじゃねえか。隠さなくたって。俺だって是非ともお相手して欲しいね。引き締まったいい体してっからなあ」

「什長。何の話をしているのかな?」

 笑みを浮かべているけど妙に厳しい顔のアイリーンさんがジョイス什長の後ろにいた。

 振り返りながらぱっと直立不動になるという動作をしたジョイス什長は冷や汗をかいている。

「いえ、そのう。小官は誰が強いのかという話をしておりました。そうだよな? クエル?」

「はい。什長からアイリーンさん……、近衛隊長が強いという話を伺ってました」


「そうか。なんか他の話題をしているように聞こえた気がしたが勘違いだったのかしら。什長、私に剣で挑みたいというならいつでも受けるわよ」

「は、光栄であります。お忙しい近衛隊長の時間を奪うのは忍びないので、いずれ機会がありましたらお願いします」

「あの。差し出がましいですが、僕にも稽古をつけていただくことは可能でしょうか? 什長に手も足も出ない腕前ですけど、少しでも強い方の技を吸収したいんです」

 アイリーンさんは困惑顔になった。

 そうだよな。ちょっと図々しかったかも。


「すいません。今の発言はお忘れください」

「あ、いや。別に向上心があるのは悪いことではない。そうだな。少し考えさせてくれ。私の技は練習向きじゃないから。では、什長。私の言ったことを忘れないことね」

 アイリーンさんは什長の肩をぎゅっと握る。

 それから、食堂を出ていった。

 ジョイス什長は糸が切れたようにドサリと椅子に座る。

「あっぶね。なんで居ると教えてくれなかったんだよ」

「この話題やめましょうって言いましたよ」

「クエルはいいけど、お前らだよ」

 什長は指を先輩たちに突きつけた。


「だってねえ」

「近衛隊長、唇に指を当ててるし」

「なあ?」

 ジョイス什長は頭を掻きむしる。

「あー、こりゃ俺死んだわ。近衛隊長と戦うとかありえねえ」

「話が戻りますけど、近衛隊長ってそんなに強いんですか?」

「力の加護持ちだからなあ。さっきも肩が砕けるかと思ったぜ。あの力で繰り出す剛剣は金属鎧も破壊するんだ。俺の骨なんて粉々だよ」


「受け流しは無理ですか?」

「うん、まあな。ぶっちゃけ、俺がクエルにやったのは近衛隊長の真似なんだよ。あれよりずっと一撃一撃が重い」

 僕は先ほどの手の感覚を思い出すように両手の掌を見た。

「それはちょっと難しそうですね」

「だろ?」

「じゃあ、さっき相手して欲しいと言ったのはどうしてですか?」


 ジョイス什長は後ろを振り返る。

「そりゃ、剣の稽古以外のことさ。一緒に遊びに出かけたり、とか恋人同士でやるようなことだよ」

「だから、僕はアイリーンさんのことを好きとかそういうんじゃないんです」

「でも、向こうは関心あるんじゃないか。わざわざ念押ししに来るぐらいなわけだし」

「違いますよ。僕の旧友を捜す手伝いをしてくれているだけです」

「まあ、いいや。この話の続きはまた今度、酒飲んでるときにしようや。それで、近衛隊長はめちゃくちゃ強い。まあ、将軍を守る職務上当然っちゃ当然だけどな。でも、あの姫将軍も護衛がいるかというといらんほど強いんだよ」


「そうですよね。槍の一振りで5人まとめて吹っ飛ばしてました」

「そうそう。それに闇の加護持ちだからな」

「闇の加護持ち? それってなんですか?」

「動きが凄え速いのよ。それに闇の剣って言ってな、この技を食らうと手足が萎えて昏倒する」

「ああ、僕も受けたことがあります。動けなくなりますよね」

「クエル。その時はお前さんも無実の罪で捕まっていて思うところがあったんだろうが、将軍に挑むとは命知らずだぜ」

「あの時はちょっと夢中で」

 僕のペンダントを取ろうとするんだもん。

 でも、什長がここまで言うほど強いんだなあ。


「夢中と言えば、クエルは木枷もぶっ壊したんだっけ?」

「そうです。でも、今でもどうしてできたのか自分でも分からないんです」

「火事場の馬鹿力ってやつだろうな。前に偉い賢者に聞いたんだが、人間てのは普段全力を出していないらしい。加護持ちってのはその眠れる力を常に引き出せるようになった人のことだとか言っていたな」

「じゃあ、僕にもそんな加護があるといいなあ」

 あと数年しか生きられないらしいけど、その間だけでもクリスを守れるようになりたいと強く願った。

 食事を終えると自室に引き上げると、それまで黙っていたシモンが盛大に愚痴を言う。

「全身が痛いよ。型の練習をして力が出ないと言ってるのにあの人たちは本気出すんだから、本当に酷いや」

「でも、敵はこちらの都合なんて気にしてくれないよ」

 僕の発言にシモンはぐるりと目を大きく回した。

 

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