第14話 驚きの提案
大事なことがあると言われて連れてこられたはずなのに僕は会議室で1人放置されている。
ローフォーテン将軍とアイリーンさんは少し待つようにと言って部屋を出ていってしまった。
やっぱり将軍ともなると忙しいんだなあ、と感心する。
それほど多忙なのに僕が出かけていたせいで、捜して連れてくる時間を使わせてしまって申し訳ない。
ただ、そのお陰で僕はあの困った状況から連れ出してもらっていた。
いきなり一緒に過ごす女の人を選べと言われても困ってしまう。
選んだ後に何をするのかも良く分からなかった。
什長さんたちの態度からすると楽しいことなんだろうけど、初めてのことなので戸惑ってしまう。
まあ、なんとなくは分かるんだ。
もちろん正確なところは知らないけど、他の人が話をしているのは聞いたことがある。
男の人と女の人の体が違うということも理解していた。
女の人と何かをするのは気持ちいいらしい。
あの場に留まっていたら、きっとそういうことをすることになったんだろう。
僕にはまだ早いと思うし、なんだかちょっと恥ずかしい。
待てよ。
もし、僕がクリスと無事再会したとして、男女のことを質問されたときに答えられないのは嫌だな。
自信を持って答えられるように僕も経験しておいた方がいいかもしれない。
まだ会えると決まったわけでもないのにちょっと先走りすぎか。
そうだ。
とりあえず、後でアイリーンさんにクリスを捜す件をもう1回お願いしておこう。
扉が開いてまたアイリーンさんたちが部屋に入ってくる。
「待たせてすまなかったな」
ローフォーテン将軍の顔からは部屋を出ていったときの焦燥感は消えていた。
「いえ。将軍もお忙しいのに、僕が勝手に基地の外に出ちゃったせいでお手間を取らせてすいません」
「いや、自由時間に外泊するのは問題ない」
「良かった。じゃあ、什長さんたちも叱られたりはしないですね」
「うむ。まあ、そうだな」
ちょっと歯切れが悪い。
「それはさておき、クエルへの大事な話というのは投降してきたシモンのことだ。そうだ。そのことに関して先に礼を言っておこう。早々にシモンの配属命令書を探し出してくれて助かった」
「いえ、お役に立てたなら良かったです」
「それでだ。シモンが元王国兵というのは恐らく間違いがない。そして、先日の戦いで我々側に損害を与えてはいないと思われる。ということで一応は嫌疑が晴れた」
「それは良かったです」
思わずにこりと笑みが浮かんだ。
ローフォーテン将軍の表情が険しくなる。
あれ? 何でだろう。
それにこの話って今すぐ僕に話さなければならないほどの話かな?
「それでだ。シモンが王国の駐留軍に復帰すると形式的にはクエルより先任ということで立場が上になる。しかし、私としては王国ブレガの基地の接収作業の王国側の責任者は引き続きクエルとしたい」
「僕をですか?」
「何をそんなに驚くことがある? クエルはこの基地について熟知しているし、読み書きもできるのだろう? こう言ってはなんだが、王国の召集兵で読み書きができるとは大したものだ。大変だっただろう?」
「僕、クリスって友達がいてそいつが読み書きできたんで悔しくて勉強したんです。再会したときに恥ずかしくないように……」
ローフォーテン将軍は横を向いて急に咳き込み始めた。
咳が収まってもまだ赤い顔をしている。
「大丈夫ですか?」
「ああ。話を戻すが、私としては引き続きクエルに責任者になってもらいたい。そのため、貴官の階級を引き上げることにした。貴官は明日から王国軍伍長となる」
「え? 僕がですか? 伍長?」
「そうだ。伍長では不服か? 私は什長でもいいと思うのだが、アイリーンが他の兵士との関係を考えると、この方がいいと言うのでな」
「いえ、そうじゃなくて、僕は伍長でも過分です。今は4級兵なんですよ」
「本来であれば着任後2週間で自動的に3級兵に昇進させていなければならない。まあ、この体たらくなので手続きを怠っていたようだがな。そして、ほぼ崩壊している組織を曲がりなりにも稼動できるようにしていた功績で2級兵。先日の戦闘で敵を数人倒しているので、そこを勘案すると1級兵にはなる」
この時点で話についていくのがやっとだった。
何も言えないでいると将軍が話を続ける。
「捕らわれていた味方を救い出した点を加味すると伍長は固い。まあ、本来は帝国軍人の私が王国兵の昇進をするのは変な話ではあるのだが、共同作戦中の戦時特例を使えばいける。王国軍に後で追認を受ける必要があるが、ガタガタ言うようなら私が黙らせよう」
ローフォーテン将軍はこころもち胸を反らせた。
私にはその程度のことは容易だという自信に満ち溢れている。
「あのう。昇進は大変名誉なことだと思うのですが、本当にいいのでしょうか?」
質問してみるが、当然という顔をされただけであった。
「それで、ここからが本題だ」
そうなの?
僕が1度に受け入れられる情報量の限界を超えそうだ。
「クエルにはシモンが部下としてつく。恐らく大丈夫と思うが、裏切るかもしれない。寝首を搔かれないように十分に注意することだ」
「彼がそんなことをするとは思えませんが」
「甘い。ああいうタイプに限って腹の底で何を考えているか分からないぞ。油断をするな」
「はい。分かりました。お気遣い頂きありがとうございます」
「いや、礼には及ばない。そんなことになったら私も胸が痛むからな」
「お話は以上でしょうか?」
「ああ。そうだな。まあ、改めてこの基地のことについて直接聞くこともあるだろうが、今日のところは話はこれだけだ」
僅かにローフォーテン将軍は不満げな顔をする。
僕から話を切り上げるような聞き方をしたのは良くなかったかもしれない。
「分かりました。あの、それでは失礼します」
本当はアイリーンさんと話がしたかったのだけど、この雰囲気では切り出せなかった。
「ああ、自由時間に悪かったな」
僕は頭を下げて部屋から出る扉に向かった。
アイリーンさんが部屋の外まで追ってきて、扉を半開きにした状態で話しかけてきてくれる。
「昇進おめでとう。良かったわね」
「ありがとうございます」
「私に何か話したそうにしていたから追いかけてきたんだけど、何の話?」
「えーと、クリスを捜す話です。改めてお願いしたくて。忙しいと思うんですけど、よろしくお願いします。僕、お金は無いですけど、できることなら何でもしますから」
最後の部分は力を込め、目を見て話した。
「ああ、クリスを捜す話ね。任せて」
アイリーンさんは背後を気にしながら答える。
あまり時間を取っては申し訳ない。
もう1度頭を下げてお願いすると僕は自室に向かった。
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