第2話 『しあわせ』
幸せのピークは、今だ。
というか、どんどん幸せになっていく。
かつては愛が怖かった。
我ながらなかなかくるしい幼少期だった。
両親に甘えられた記憶はない。
いつも遠慮し、いつも寂しく、
いつも何かを我慢している子どもだった。
愛のシャワーを浴びてみたかった人生だった。
それについてはまた話そう。
頑張り屋さんの私は、
人生の山をコツコツと登っていった。
確実に明るい方向に向かっていて
ついに視界が開けたようだ。
ここは頂上かな?
いや、
ここから下り坂では困るし
頂上なわけないが、
今までで一番高くて
きもちのいい場所にたどり着いたのだ。
好きな人がいること。
好きな人に愛されるということ。
4つ上の彼は、
私よりも
チヤホヤされるタイプであった。
アメリカンフットボールと筋トレが趣味。
鍛えた身体と
くりっとした瞳。
お店にいくとよく男性店員に
「にーちゃんいい体してんなぁ。
なんかスポーツしてんの?」と煽てられる。
『私、
煽てられ慣れてると自負してるんですが、
私は?』
と心の中でよくつっこんでいる
痛いオンナ、
私。
顔がすき。
声がすき。
スマートなところとマメなところ、
愛情表現してくれるところ。
とにかく感覚重視で生きている私と、
真逆な人間性に魅力を感じてる。
ただ、論理的で
人の気持ちに疎いところが
ハラタツ。
主にそこが原因で2回ほど別れたが
向こうの猛プッシュに負けて
結婚前提でよりを戻し、同棲中。
このあいだのクリスマスに
プロポーズしてくれて、婚約した。
一輪の薔薇と、
手づくりのダイヤの指輪。
少し泣いた。
後で見せてもらった、
指輪を作っているムービーが愛おしかった。
昔から大人しぶって
中身激ヤバオンナの私。
彼はゲラゲラ笑ってくれるので
私のおふざけは加速していく。
昨日はすりガラスに
顔をくっつけ
お互いにどちらが面白くできるか
勝負をして笑い転げていた。
それを平気でインスタにアップした。
私達の特技は
小さな幸せを噛み締めること。
一緒に暮らすだけで幸せは溢れる。
疲れた日は
仕事終わりに近所のコンビニで待ち合わせ
あーだこーだ言いながら
気分のご飯を買って帰る。
ある時は高級食パンを握りしめて
2人で興奮しながら帰り
部屋に飾った。
中古で買ったバイクに二人乗りし
買い物に行くのが楽しい。
近所のボロい銭湯を開拓するのも楽しい。
冬のバイクは寒いけど
彼が太ももをさすって温めてくれる
その行為の方があたたかい。
夜は大きい腕に巻き付いて眠り、
朝トレに行く彼は
忍者のように起き上がり、
いつまでも寝ている私に
チュッとして出ていく。
私はちゃんと愛していた。
日々に感謝していた。
まっすぐに。
淀みなく、純粋に。
子どもが出来るまでは
安いところで暮らそうと、
治安がよろしくないとされる
築30年のリノベーションアパート。
世界一大切な場所だった。
私の世界一愛おしい人は
紛れもなく彼だった。
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