第2話 風と共に唐突に(AI挿絵あり)

「あんたを助けにきた、行くぞ、世界を知りに」


(挿絵)

https://kakuyomu.jp/users/NORAKENTA/news/822139836924780963


「・・・」


「・・・え、あれ、違ったか?ポットから出てきたし他に人とかもいなかったからそうだと思ったんだけど、・・・あ、言い方悪かったか、わかりにくいかもな、うん」

 目の前に現れた青年はぶつぶつと何か言っている。


「あー、依頼主、あんたの母親?に頼まれて助けに来たんだけど・・・いかがなもんかな」


「・・・」


「・・・やっぱちがうよな、だって女の子なんておかしいもん、普通魔導書とか兵器のはずだよな・・・悪い!人違いだ!忘れてくれ、マジで!」


 彼は踵を返し立ち去ろうとする、そんな彼を私は呼び止めた。


「待って!!」

「あん?」

 彼は振り向く。


「私を助けに来てくれたの?」

 その言葉を聞いて彼はニヤッと笑う。


「そうだ、あんたを助けに来た」

「だったら助けて!今すぐみんなを!」

「・・・悪いけどそれは無理だ」


 助けに来たと言ったくせに青年は私の頼みをいきなり断ってきた。

「なんで・・・?」

「何でってそりゃ依頼主に頼まれてるのはあんたを助けることだけだからな、あと出来ればあんたに外の世界を見せること。それ以上の事なんて依頼内容に入ってないんだ、できない相談だってーの」


 この人はダメだ。

 私は青年に背を向け家に向けて走ろうとした、そのとき手をつかまれ引き留められる。


「っ!何よ!」

「馬鹿かお前、俺はお前を助けに来たって言ってんだぞ、勝手にどっか行こうとするなよ」

 馬鹿、人に対してそんな言葉を眉一つ動かさずに言い放ってくる。

この男は助けるという言葉の意味を分かっているのだろうか、むしろ私を傷つけてくる彼の手を私は振りほど・・・こうとするけど全然振りほどけない。

「は!な!し!て!よ!」

「いや、絶対離さない」


 言葉だけ切り取るとかっこいいかもしれないがこの男のやってることは最低だ。

 振りほどけないのなら引きはがすだけ、私は男のほほを引っ叩こうとする・・・が当たらず、男はひょいと避けてくる。避けた後鼻で笑ってくるのが鼻に着く。

「なんなのよ、もう!」

「いや、こっちのセリフだから」

「あなた助けるって意味知ってるの?こういう時王子様はさっそうと駆けつけて困りごとを解決していくの、それが助けるってことなの!!」

「王子?何言ってんだ?」

「何でもない!とにかく離して!私は家に戻らなきゃいけないのよ!」

 男はあきれたようにため息をつく、もちろんその間も私の手を離してはくれない。

「じゃあ聞くが、家とやらに戻ってその後どうすんだ?」

「どうって、助けるのよ!みんなを、お母さんを!」

「どうやって?」

「・・・!うるさい!あなたには関係ないじゃない!手を放せ、この冷血漢、人殺し!」


 パチン!


 男は手を離した瞬間私のほほを叩いてきた。

「っったい!何すんのよ!」

「言われた通り離したんだけど?」

「だからってなんで叩くのよ?」

 男はゆっくりとベルトに括り付けてある片手剣を鞘から引き抜いた。

「これからおまえをぼこぼこにするから」

 え?何それ、ちょっと待ってよ、あなた曲がりなりにも助けに来たって言ってなかった?何でそれでそんなものを振りかざそうとしているの?

 男の訳のわからない行動に私はその場に尻もちをつき動けなくなってしまった。


 斬られる!そう思い固く目を閉じる。・・・が何も起こらない。

 ゆっくりと私は目を開ける、すると目の前に男の顔があった。

「やっぱやめた方がいいぜ?」

 さっきの顔とは打って変わって二パッと笑ってくる。


「・・・何がしたかったのよ」

「あんたの度胸を試した。だけどそれじゃ無理だな戦えっこない」

「そんなのやってみなきゃ」

「今やったろ」

 何でこの男は私がしようとすることを一つ一つ潰そうとしてくるんだ!

「はぁ、相手の規模は?」

 相手の規模?そんなのは分からない、だって確認する時間なんてなかったし、でもそん事を聞いてくるなんて・・・。


「もしかして!!」

「ないないない、助けに行こうなんてしてないからな、俺はいかにお前が無知蒙昧かを思い知らせてやろうとしてるんだ」

 ---このくそ野郎・・・!

「睨んだって変わらないぜ、それにその様子だとやっぱ敵の事なんてわからないみたいだな、そんなとこに見ず知らずの人間送り込もうなんて人殺しはどっちだよ」

「でも、だけど、お母さんきっと待ってる・・・」


 母が危険な目に合ってる、そう思うとやはりこのままではいられない。

 今まで真正面で話していた男は私の横に移動し座ってくる。


「ほんとにそうか?」

「え?・・・そ、そうよ、そうに決まってる」

「俺はあんたの母親、多分確実だと思うけど、その人に依頼されてここにいるんだぜ、私たちを助けてじゃなくて、お前を助けてって内容で、覚悟してたんじゃないか、全部」

「・・・!」


 こんな会ったばかりの男に見透かされたようなことを言われる、でも確かにその通り、今日は朝から不思議なことが多かった。母は全部わかってたんだと思う、それでいて私の願いを聞いてくれて、きっと不安だった中精一杯笑ってくれて・・・。

「でも私、お母さんに何もできなかった!!」

「おう」

「だから助けに行かないと、また一緒にいて、恩返ししないと」

「だったら、とりあえず生き残らねぇといけないんじゃねぇの?あんたの母親はこの事態を予測してた、何かしらの対応策くらい講じてるさ。やばい状況でもお前を守ろうとする人なんだろ?きっと強い人だ」


母は強い、その通りだ。この男に言われるまでもなく知っている。だけどやっぱり不安はぬぐい切れない、最後母の後ろのドアが壊されていたあの光景が忘れられない。今この瞬間も母は苦しんでいるのではないか、そう思うといてもたってもいられない気持ちになる。


「あなたの言う通り母は強い人よ、だけどやっぱり不安なの。どうにかして助けられない?」

「悪いけど今は無理だ、もし依頼内容に入っていたとしてもな、とりあえずあんたの安全を確保することでいっぱいいっぱいだ・・・とりあえず行くぞ、ここにいて追手でも来たら厄介だ」


 今は無理だ、そう言ってくれた。悪い人かと思ったけれど少しひねくれているだけかもしれない、もしかしたら私を考え直させるためにいろいろ言ってくれたのかもしれないし。

「あ、私のためを思っていろいろ言ってくれたんだよね、ありがとう」

 私がお礼を言うと彼はありえないと言った顔をしてくる。

「・・・王子様とか言ってたからまさかとは思ってたけど、やっぱお前脳みそお花畑だな」

 ---私やっぱりこの人嫌い!!

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