第46話 私と貴女㊻

感情というのは厄介です。

理性でコントロールできない領域がありますから。厄介極まりないです。

どうすれば良いのでしょうか? 

解決策が見つかりません。

八方塞がりです。

途方に暮れてしまいます。

誰か助けてください。

お願いします。

祈るような気持ちで、彼女を見つめます。

そうすると、彼女が微笑み返してくれました。

それだけで救われた気がしました。

単純ですね、私。

でも、それで良いのだと思います。

複雑に考える必要はありません。

シンプルに考えればいいのです。

そうすれば、悩みも解決するはずです。

少なくとも、今の私にはそれが最善の選択肢だと思えます。

だから、迷わず突き進みます。

結果はどうあれ、後悔しないように全力を尽くします。

それが私の生き方ですから。

そう誓い、目を閉じます。

意識が遠退いていきます。

睡魔に身を委ねます。

最後に感じたのは、彼女の温もりでした。

心地よい感触です。

とても幸せな気分です。

幸福感に包まれながら、眠りにつきました。

翌朝、目覚めると、すでに朝食の準備ができていました。

テーブルの上に並べられた料理を見て、驚きました。

どれも美味しそうです。

食欲が湧いてきます。

お腹が空いてきました。

早く食べたいです。

我慢できずに、席につきました。

そして、手を合わせます。

いただきます、と言って、食べ始めました。

まずは、パンを口に運びます。

ふんわりとした食感とほのかな甘みが広がります。

次に、スクランブルエッグを掬って、口に入れます。

バターの香りが鼻腔を擽ります。

トロッとした卵とベーコンの塩気がマッチしています。

美味しいです。

幸せな気分になります。

夢中で食べ進めます。

あっという間に完食してしまいました。

お皿の上には何も残っていません。

満足感で満たされています。

至福の一時でした。

心の中で感謝の言葉を述べます。

ありがとう、と心の中で呟きます。

彼女の方を見ると、優しく微笑んでいました。

嬉しくなりました。

思わず、笑みがこぼれてしまいます。

そんなやり取りをしているうちに、時間が過ぎていきました。

気づけば、家を出る時間になっていました。

慌てて準備をします。

仕事着に着替えて、鞄を持ちます。

玄関で靴を履いて、ドアノブに手をかけます。

その瞬間、後ろから声がかかりました。

「ねぇ、ちょっと待って!」

そう言われて振り返ると、彼女が立っていました。

何やら深刻そうな表情をしています。

何かあったのでしょうか?

心配になってきました。

「どうしたの?」

そう尋ねると、彼女は俯き加減に呟きました。

その声は震えていて、今にも泣き出しそうな雰囲気を醸し出していました。

一体どうしたというのでしょう?

不安になりますが、ここで問い詰めても仕方がないと思い直し、とりあえず話を聞くことにしました。

そうすると、彼女がゆっくりと口を開きます。

そして一言だけ告げました。

「私ね、貴女とキスしたいの」

その言葉の意味を理解するのに、時間がかかりました。

数秒の間をおいてようやく理解が追いついた時、驚きのあまり固まってしまいました。

まさか、そんなことを言われるとは思ってもいませんでした。

冗談なのかとも思いましたが、彼女の真剣な眼差しを見ると本気だということが伝わってきます。

ならば、どうすればいいのか?

私は考え込んでしまいました。

まず最初に思いついた選択肢としては、断るというものでした。

しかし、それは少々卑怯ではないでしょうか?

相手からの好意を無下にするというのは気が引けますし、何より失礼です。

なので、別の選択肢を探すことにしました。

次に思いついたのは承諾するというものでした。

この場合、問題は相手の意思を尊重しなければならないという点です。

つまり、相手の意見を尊重しつつ、自分の気持ちを伝える必要があるということです。

難しいですが、やるしかありません。

覚悟を決めて口を開きます。

「いいよ」

そう答えると、彼女は嬉しそうに微笑みます。

その笑顔はとても可愛らしくて見惚れてしまいそうになりますが、今はそれどころではありません。

これから起こるであろう出来事について考えなければなりませんから。

緊張で胸が高鳴っているのを感じます。

心臓の音がうるさいくらいです。

深呼吸をして落ち着きを取り戻し、気持ちを落ち着かせようと試みます。

しかし、なかなか上手くいきません。

それどころかますます混乱してきます。

そんな中、彼女はゆっくりと近づいてきて、私の肩に手を置いて顔を近づけてきました。

私もそれに合わせて目を閉じます。

心臓が激しく脈打っているのが分かります。

唇に触れる柔らかい感触を感じると、全身に電流が流れたような感覚に陥りました。

恥ずかしさと嬉しさが入り混じった複雑な感情が渦巻いています。

永遠にこの時が続けばいいのにと思っている自分がいることに気付き、驚いてしまいます。

それほどまでに私は彼女を求めているのだと実感しました。

しばらくして、彼女はゆっくりと離れていきます。

そして微笑みながら言いました。

「ありがとう」

その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられるような痛みを感じました。

それと同時に愛おしさが込み上げてきて、彼女を抱きしめたい衝動に駆られました。

しかし、なんとか堪えて平静を装います。

そんな私を見て彼女はクスリと笑いました。

その笑顔はとても美しくて見惚れてしまいます。

そんなことを考えているうちに、いつの間にか彼女の手が私の手を握っていることに気が付きました。

その手はとても温かくて安心感を与えてくれます。

そのまま、私たちは手を繋いで歩き出しました。

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