第5話 親を思う子と母との距離感
「ただいま」
公園でおじい様と話したあと、帰った僕は手荒いとうがいを忘れずに行い、部屋へ向かった。荷物を置く。
「食べられる 」
車輪の付いた椅子に座り、さっきの人物を思い出し、身震いする。
(でも、この種に罪はないし……)
危ない代物かも知れない。しかし、捨てることは出来ない!!
(この世に無駄な存在なんて居ないのだから……)
持ち主に危険だと言われた種とイジメられている自分と重ね合わせる。
そう言い聞かせるかのように外へ。そして、玄関の靴箱に置いてある草むしり用のスコップと
(あった)
今は使われていない。陶器で出来た植木鉢を見つけた。
(あ、残ってる)
下を触る。子どもの頃、掘ったYの文字が刻まれていた。
「さっきからゴソゴソと、ってあら懐かしいわね 」
探す時に音を鳴らしたせいか、母が訪ねてきた。
「うるさくしちゃった。ごめんね。母さん 」
「良いけど、植木鉢なんて何に使うの?」
お母さんはいつもは働いていて、家に帰るのもかなり遅い。しかし、今日は休みだったらしく。
(母さんには感謝しかないよ……)
家事をしてくれていた。だから。
(心配掛けたくないよな……)
余計な心配は掛けたくないという、親を思う愛。だから、イジメのことは言っていない。
「種植えるの。だから、土貰って良い?」
「良いけど 」
そう言って庭に出る。庭の土を掘り返して、植木鉢の中へ入れる。
「本当、見たことない種だね。ヨシ。今日から君の名前は長宗我部元親だ 」
「いや!!何がヨシよ!!何もよくない!!」
手に持った種を命名しょうとした所、ハイテンションになった母親にツッコミを入れられた。
「いや?なんで?歴史の時に習う戦国大名の名前にするの?」
「え?カッコいいから 」
「その種が何かはわからないけど、多分、荷が重いと思うよ 」
「そう言われてみれば確かに 」
納得されてしまった。最高にカッコいい名前だと思ったが、
「第二候補の種実にします 」
「いや。寧ろ、なんで第一候補がそれだったの?」
母親は疲れている様子だった。
「疲れているなら今日は速く休もう 」
「誰のせいだと思ってんだ。誰の 」
母親は家の中へ戻っていった。
(優しく)
土の上に種を乗せて、土を上から被せる。汲んできた水を土へ
(大きく育ってね)
根腐れしないよう、水をやり過ぎないよう心掛けた。
(どんなのになるのか、楽しみ)
どんな花を咲かせるのかを夢馳せていた。
「あそこまで楽しそうなのを見るのは久しぶりね 」
彼の笑顔を見ていた。
「ねぇ?母さん?土で汚れたからお風呂入っていい?」
「良いけど?まだ?洗ってないよ 」
「大丈夫。いつも通り、こっちで洗っとくから 」
彼は土で汚れたため、風呂に入ることにした。
お風呂は自分で洗う。いつもと同じ方法で。流した。
「えっと今日は?」
彼は、入浴剤を吟味した。
「今日は別府にしょ 」
日本の名湯シリーズの入浴剤を選んだ。
お風呂場は湯気が充満している。バスタブに入浴剤が入っている袋を千切って入れる。
湯船に浸かる前にまずは身を清める。貯めたお湯を清潔に保つため、先に身体を洗う。
お湯の温度を確認する。温度は39度。
「計算通り、完璧〜♪」
僕はお風呂にゆっくりと浸かる。肩まで浸かれるほど湯を貯めていた。
「うへ〜」
気の抜けた声を出した。
「気持ちがいいねぇ〜」
我ながらおじさん臭いな。と思いながら堪能するのだった。
一方その頃、母親はというとさっきの顔を見て思い出していた。
(目の下のクマ、酷い)
最近は眠れていないのか?と母親は思った。
(メンズ用のコンシーラーで誤魔化してるようだけど)
母親はクマだらけの目のことを聞きたかった。でも、
(無理矢理に聞き出すのは……)
それはしたくなかった。しかし、母親はのちに後悔する。その決断が間違いで無理矢理にでも聞き出せばよかったと――
この時はまだ。
□□
一晩経った後の朝。朝ご飯を食べて、お母さんからお弁当を貰う。
その前に部屋でやらなければならないことをしていた。鏡を見る。
この隈は、心配をかけるから隠せるコンシーラーで目元の隈を誤魔化す。
コンシーラーは自分の肌に合ったカラーを選ぶこと。
持ち運びとカバー力が高い自然色のスティックタイプ。
一様、「洗顔料で落とせる」と書かれている物を使用している。
隈が出来る理由には、主に睡眠不足が影響するので出掛ける前に薄く塗って隈を目立たないようにする。
石鹸水を掛けられた時は焦った。
(何かの洗剤かと思った)
ヌメッとしていたことから薬品を疑ってしまった。しかし、石鹸を入れた水だと放課後、伝えられた時は本当に安心した。
まあ、コンシーラーが落ちてしまったが――
薬品とかじゃなくて良かったと安堵したものだ。
(体育で体操服だったから良かったけど……)
下着も保健室で替えを貰えたから良かった。
金曜日で母が仕事だったからバレずに洗濯することが出来た。
母さんには体育で汚れたからと言って。
それにコンシーラーも切れてしまう始末。
しかし、それで落ち込んでいた所でおじい様には気付かれてしまったが――
それも良かったとさえ、思ってしまっている。
(出逢えたんだから……)
身支度を終えると机にある写真立てを見る。
「これがあるから頑張れるんだよな 」
これは中学校にいた時にみんなで撮った写真だった。
勇気を貰って部屋を出る。
「おはよう。父さん 」
「おはよう。よもぎ 」
父親に挨拶をする彼の日常が始まった。しかし、彼は知らなかったのだ。
これがこの世界での父親との最後の会話になることに
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