第8話 個人を殺す「協調」と学級崩壊なクラス

 目が覚めた途端、身体が冷たさを感じる。白い綺麗な石の床。


 (大理石なのだろうか……)


 素材は石であることは間違いではない。その床に何か、溝のようなものが付いていた。


 (何だろう……?)


 手でその溝を触る。削ったような痕が手から伝わる。


(あれって?昨日の鉢植え……)


 近くに鉢植えがあった。間違えるわけがない。あの下部分のキズもあった。


 地面を齧るように這いつくばり、目で溝を追った。


 溝は遠くまで続いていた。そして、周りにはクラスメイトたちが眠っていた。


 近くに先生がいた。


 先生の胸を見て、顔に耳を近付け、手首を二本の手で押さえた。


 (呼吸はしている……脈もある)


 胸が上下に動いている。息を吸って吐く音も聞こえる。脈も感じた。


「先生……先生……原田先生」


 安全を確認した上で先生を少し揺らして起こす。


 すると、目をゆっくりと開けて、身体を起こし、背伸びをした。


「あれ、ここは?」


 思考が冴えてきたみたいだ。


「先生、ここはどこですか?」


「え?え~とここは……?」


「僕もわかりません」


 それはそうだろう。僕だって何故ここにいるのかわかっていないのだから。


 それより、身体が重くて、頭がボーとする。少しふらつく感じもする。


「帝国騎士団、第二隊 団長のローレンスだ。よろしくな!!」


「同じく第二隊 副団長のレイナードと申します。混乱していることですが、付いて来て貰えますか?」


 金属の鎧に身を包み、腰に剣を掛けている。騎士という格好をしていた。


 ローレンスさんはパット見の印象は豪快。


 レイナードさんは外見が上品、穏やかで優しいそうな印象を受ける。


「あの?」


「取り敢えず、付いて来て貰えますか?説明はそこで……」


「わかりました」


 申し訳なさそうにしている二人を見て、先生は了承してしまった。


 ローレンスが僕に対して手を差し伸べていた。どうやら、立てということらしい。僕はその手を取り立ち上がる。


「うん、問題ないみたいだ」


「みんなを起こして良いですか?」


「先生も手伝います」


 よもぎは騎士に了承を得るとみんなを起こし始めた。


「よし!!それでは付いて来てくれ!!」


 こうして、騎士たちに誘導されて僕たちのクラスメイトは玉座の間と呼ばれる場所に案内されたのだった。









   □□






 僕たちは階段を登り騎士たちに付いて行った。


 2階から僕たちがいた一階を見た。


 今の僕は植木鉢を持っているため、後方に居た。


 (やっぱりだ、学校の床から出てきた模様と同じ……)


 一階の床には、幾何学きかがくの模様が付いていた。


 僕たちは玉座の間という場所に案内され、そこで皇帝と皇女に謁見することになった。


 ひんやりとした床には赤いカーペットが敷かれており、その先には椅子が二つ置かれた。


 赤い旗のような物が壁に掛けてある。


 一言で言うなら豪華絢爛という言葉が合っていた。



「よく参られた。異世界の者たちよ」


「どうかわたくしたちを助けて下さい」



「「「テンプレ展開来た!!」」」



 一部の男子たちが騒ぎ立てる。お年を召した男性と女性が玉座に座っていた。


「よく来た勇者たちよ。余がステア帝国の皇帝、ガルダンディだ。」


 王の外見は30歳ぐらいだろうか?髭を生やしていて、渋い感じだ。


「そして私が第一皇女のエウティリアよ。あなたたちを召喚したのは私達なの。突然で驚いたでしょうけど、どうかこの国のために魔王を倒してくれないかしら?」


 こちらも美人だった。だが僕たちを召喚したことにあまり罪悪感を感じていないようなのだが……


「1つ聞きたいんだけど、私たちは元の世界に帰れるの?」


 クラス委員長の西川さんが王の目を見て聞いた。


「おい!!おい、ちょっと待て!!これは誘拐だぞ」


 そう言いながら王座に座っている皇帝に向かって、話に割って入り、怒鳴り付ける。


 (起こす時にスゲぇー機嫌悪かったからね……)


 先生が起こした時も大分噛み付いてたみたいだった。低血圧。


 (怖くないのかな……)


 周りには兵士達がいる。それなのに強気に出れる彼が少し凄いなと周りは思っていた。


(仕方ない……)


 植木鉢を床に置くと彼に近付いて行った。



 そんな彼の名前は、恐神おそがみ 涼夜りょうや



「ねぇ、涼夜君。今はさ、あの人たちの聞こうよ、ね」


「うるせぇ!!」



 よもぎが止めようとすると彼は近付いて胸倉むなぐらを掴みあげる。



「俺に命令するんじゃねぇ!!この陰キャ野郎が!!」




 そう言われるとよもぎはいつもの通りに腹を殴られた。


 胸倉むなぐらから手を離すとよもぎはその場に崩れ落ちた。


「よもぎくぅん?大丈夫かぁい?」


 二人の生徒が


 一人目、松永  誠一郎せいいちろう眼鏡メガネをクイッとあげながら


 しかし、その眼鏡メガネの中の瞳はまるで心配してなかった。


 二人目、北上きたがみ 七海ななみという女子生徒もニチャアとした笑顔を見せながら小馬鹿にしてきた。


 しかし、なにより彼が一番腹が立っているのは自分自身にだ。


「よもぎ君!大丈夫かい?」


「ゴホッ……ゴホッ……だいじょうぶです」


 原田先生が駆け付けてくれた。正直、前の二人と同じ言葉とは思えなかった。


 自ら起きたよもぎの背中を摩ってくれた。


「大体、なんでテメェらの話なんて聞かなきゃならないんだ」


 態度は悪いけど、言っていることは最もだと思う。しかし、




 (周りに騎士たちが居るのに……)




 そう、ローレンスさんが名乗ってた帝国騎士団の騎士たちが剣を掲げている。いつ、攻撃に出るかもわからない。




 それなのにも関わらず、赤い絨毯をズカズカと歩き、皇帝との距離を縮めていた。




 皇帝の小さい声が聞こえた。


火球ファイヤーボール


「おいおい、小せぇな声が……」


 そう言った直後だった。彼の真横に炎の弾が通り過ぎて行った。




 通り過ぎた炎の弾は柱に当たり、傷を付けた。


「な!?」


 涼夜は腰を抜かして、倒れ込んだ。クラスメイト達も目を見開いて驚いた。




「失礼。これは魔法というものだ。説明するより見せた方が速いと思ってな。それで余の話を聞いてくれるか?」


 (生かすも殺すも自分次第という訳か)




 脅されているのをみんなは感じた。


「なあ、涼夜。ここは話を最後まで聞くべきではないだろうか?」



 今、出て来たのは、あかつき 春矢はるや


 イケメンでサッカー部のエース。成績優秀。


 クラスの人気者で陽キャ。クラスの中心人物。文武両道を体現したリア充だ。


 よもぎにとっては苦手な存在だ。




「涼夜、状況を考えるんだ。周りは刃物を持っているんだ。そんな態度では追い出されてしまうかも知れない。右も左もわからない状態で追い出されるのは不味い。更に追い出されたら良い方だ。最悪、殺されるかも知れない」


「わかったよ」


 春矢からの正論を突きつけられて、バツが悪そうに下がって行く涼夜。


 (でもさ、目の前でそんなこと言わないでよ)


 よもぎは拉致した犯人の前でそんな刺激するようなことを言う彼にそんなことを考えていた。




「コイツ、頭が可笑しいのか」


 とクラスの男子は言った。


 悪口は良くないと思うが、同じことを考えている人がいることがわかり安心した。




「流石、春矢」


 ぶりっ子みたいな声を出しているのは、矢野 凛。




 一言で言うなら異性には好かれるが、同性にはとことん嫌われるタイプの性格だ。


 男には色目を使うし、同性には厳しいと専ら有名な話だ。


 よもぎは本性を知っているため、男子はなんで惚れるのか、わからなかった。


 男子たちをパシれる存在。因みに春矢の幼馴染らしい。




「なに?あの子、春矢君に触って……」


「幼馴染だからって触り過ぎよね」


「ベタベタと……」


 柏木 明美など女子たちから小声ではあるが凄い陰口が聞こえて来た。




「ここでも主人公気取りかよ……仕切りやがって……」


 春矢も忌々しく思っている男子も多くはないんだとか、




(あまり、気分の良いものじゃないな)




 みんなが落ち着いて話を聞く気になった所で皇帝が話してくれた。


 簡単に要約すると


 魔族が襲って来たため、戦争が起こり、民は困窮している。


 だから、助けて欲しい。


 そのために異世界から勇者召喚の儀を行った。


 戦力となる者たちを呼んだこと。


 帰れる方法は現状わからない。


 魔王が知っているかも知れない。


 それまでは、訓練を受ける代わりに城に住んで貰って構わない。


 とのことだった。


 (滅茶苦茶メチャクチャ胡散うさんくせぇ!!)


 よもぎが全部聞いて思ったことだ。


「俺たちにファンタジーごっこをしろってのか!!」


「そうだ!!そうだ!!」


「ふざけるな!!」


「そうよ!!ふざけないで!!」


 クラスメイトたちはブーイングを繰り返す。


「みんな!!一旦、落ち着こう!!」


 晴矢が声を張り上げて、注目させる。


「ガルダンディさん!!魔族との戦いが終わったら、返して貰えるんですか?」


「魔王が知っているかも知れない」


「魔王を倒せば帰れるんだ!!やろうみんな!!」


「「「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」


 クラスメイトたちは流させるかのように晴矢に賛同した。


(同調圧力とは恐ろしいな……)


 思考を停止して流されるように彼が言っていたから、晴矢が言っていたからと戦いに参加しょうとしている。


 心理的圧力。暗黙の内にプレッシャーを与える。


 多様性を尊重しない。悪い意味で現代人特有の「協調」と呼ばれる所が出てしまっている。


 (それにしても魔王か……)


 魔王。魔族の王。RPGとかでは悪役として描かれているけど、その辺はどうなっているのだろうか?




「倒せば帰れるかも知れないとは一言も言っていないだろ……」


「つか、魔王が知っているって言っているのに何故、倒すことになってんだよ……」



 クラスの男子はそんなことを言っていた。 


 確かにそれは一里ある。


「ちょっと待って下さい!!」


 待ったを掛ける者がいた。原田先生だった。


「この子たちはまだ子どもですよ。戦いに巻き込むなんて……」


「僕も先生の意見には賛同です。第一戦えるかどうかもわからない。それに死んじゃうかも知れない……」


 そもそも平和な世界で生きてきた僕たちは戦い向きじゃない。


 よもぎも先生の意見に同意見だった。


「わかった。では、自主性に任せるということに……」





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