第7話 異世界へ

 放課後、私はよもぎ君にノートを職員室に運ぶのを手伝って貰っている。


「苦しくなんですか?」


 クラスに居る権力者からイジメられるということ。それなのに……


(何故?彼の心は折れないのか?)


 先生として、そして、一人の大人として、聞いてみた。


「僕はそんな大それた人間じゃないし……強くはないし、賢いわけでもない。」


 考えながら立ち止まる。自分の欠点を言っていった。


「でも、守りたいから守る、助けたいから助ける!!僕は力が無くても!!そう!!行動したい!!」


 力強く宣言した。本当は転校を彼に提案するつもりだった。


 しかし、


「それに?僕が居なくなったらどうなるんですか?


大森君は?細山田君は?西川さんは?原田先生は?加藤君は?」


 最悪な事態に陥った時のことを考え、不安になっていた。近くで見るとクマが刻まれていた。


「だから、僕は僕の目が、手が届く範囲の人達までなら助けられるからさ」


 夕日に照らされている廊下を歩き、前に出る。


「だから助けてるだけだもん」


 後ろを振り向く。


(そうか、心が強いんじゃないんだ……)


 ただこの環境で前向きに考えなきゃいけないだけの普通の男子高校生なのだと私は思った。


「その心意気は素晴らしいと思います。けど、力が無いと出来ないこともある 」


「それはそうですけど……」


 でも、彼は正しいことをして誰かを救いたい。


「……まぁ、君には君のやり方がありますよね?」


 私はそう言うと職員室に入って行った。よもぎも後を追って中に入る。そして彼はノートを渡した。








   □□






 私は教壇の上から教室を見渡した。


 教室の後ろのほうに、少しばかり目を引く生徒が座っていた。


 彼はいわゆる見た目、典型的なオタク。ちょっとくせっ毛の短い髪で、切れ長のツリ目、黒縁メガネをかけている。


 その見た目から、オタクとバカにする生徒もいる。


 そんな彼は、いつも一人でいることが多い。それは、彼の性格によるものだ。


 彼は、あまり人と話そうとしないし、人付き合いを好まない。


 しかし、彼は一人でいることを気にした様子も、寂しそうにも見えてしまう。


 オタクと言われても気にしていない。


 今のクラスに馴染もうとも出来ない。


 それが、彼だ。


 でも、私は知っている。


 彼が、本当は優しい人だってことを。そして、本当はお茶目な人だということも


 ただ仲良くなるのに時間が掛かり、素の自分を見せるのが遅いだけなことも


 みんなから聞いて、寂しがり屋で甘えん坊だということも


 そして、その優しい人が、今、困っていることを。


 だから私は、先生として、大人として、彼を助け、支えたいと思ったんだ……。








   □□





 ホームルームが始まる前、まだ先生が来ていないためか、少し騒がしかった。


 そのため、スマホのアプリで音楽を聞く。サブスク。


 (この楽曲は良い)


 先の展開を見て来た預言者みたいな作詞のセンス。いつ聞いても心が熱く、圧倒される。


 (スゴイ……)


 天才はやはり居るとしみじみ思うのだった。


 教室の扉が開いた。そのため、100均のイヤホンを外す。


 教壇の上から教室を見渡した原田先生の第一声で、帰りのホームルームが始まった。


 しかし、先生の話を遮るようにして、甲高い音が鳴る。


 なんの音かと思えば、クラスメイト達は、原田先生の話など気にしていない様子で、スマートフォンでなにか操作している。


(スマホを使うのは良いけど……)


 先生が来たなら辞めるべきだと考えていた。


 その音が鳴るなり、がやがやと賑わっている教室。


 そんな中、気まづそうに先生は口を開く。


 まだ原田先生の話を聞く素振りを見せない生徒にため息をついた。


 これはいつもそうだ。クラスメイト達は先生の言うことは聞いていない。


 半ば、学級崩壊状態だ。


 原田先生の授業だってまともに先生の話を聞こうとしている人はいない。


 ノートを取りながら真面目に先生の話を聞いているのは、数人だけだ。


 それなのに、このクラスの生徒はいつも成績が上位らしい。


 授業は聞かないのに、テスト前の勉強時間はしっかりしているし、教室移動をするときだって真面目だ。


 だから、先生達はこの状況に気付かない者もいる始末。


 どうすることも出来ないまま放置状態な先生まで居る。


 まぁ、こんな人達が沢山いるから、私は気まづい思いをしないで済んでるんだけどね。


 それに、授業は聞かなくてもテスト前になったら自然とクラスメイト達が集まって、ノートを広げながら友達同士で問題を出し合ったり、教え合う姿はこのクラスの偽りの姿だ。


 正直、吐き気がする。嘘つき、大っ嫌い。


 そんなことを考えていると、床に今まで見たことが無い紋様や文字で構成された図が光っていた。


「な、何これ!?」


 クラスメイトが騒ぎ始める。


 すると、床の図は光を増して、クラス全体を包み込んだ。


 そして、僕の意識はそこで途切れた。



 それと同時に彼が昨日、植えた鉢植えが消えていた。


 後書き


 この度、お読みくださいまして、本当にありがとうございました。


 次回、やっと異世界へ行きます。評価とブックマークをお願いします

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