第4話 手

「お、おま、今何、あえ?」


顔を上げるとメガネの男子が立っていた。彼こそが、数少ない俺の友人、遠藤聡えんどうさとるだ。基本、昼食はいつも彼と食べていた。


「ああ、聡」


「いや、ああ。じゃなくってさ。お前何してたんだよ!?」


「……さあ?」


ちょっと俺にもよくわからない。あまりにも唐突すぎた。


「まあ、簡単にいうと、卵焼きもらった」


「あ、あ、アーン!?どゆこと!?」


「なんだろうね」


なんだこいつは。いつもこんな大声でないだろうに。


「え、誰?」


「友達の遠藤聡」


「あたしは小鳥遊アカリ、よろしくね! 遠藤くん」


「は、は、初めまして。こ、こちらこそ。おいコウ、俺どこ座ればいいんだよ」


コソコソと、耳打ちしてくる。


「どっかから椅子持ってくるか」


ゴトゴト。前の方の誰も座ってない席から椅子を借りてくる。


「はい」


「ああ、ありがとう」


「…………」


「…………」


しばらく無言が続く。


「小鳥遊さんはえーと、転校生? なんか噂になってるけど」


「うん、神奈川から来たんだー。うわさって?」


「あー…」


ちらっとこちらを見る。まあなんとなく分かってるが。


「転校初日で居眠りするギャルって」


「あっはははー。やっぱ初日の初めの授業はねー」


心底おかしそうに倉本が笑う。


「や、それは…色々あったからちょっと疲れてて」


「ああ、引っ越しとか、手伝い大変だもんな」


そう言うと、その顔に、色に、少し影が差す。引っ越しに何かあったのか、それとも引っ越しの原因に何かあるのか。


すると倉本が口を開く。


「そう言えばアカリってなんで引っ「そんなことよりさ」」


この話題はダメな気がする。すかさず遮ったは良いものの、その先を考えてなかった。


「「ん?」」


三人とも声を揃えて聞いてくる。


「あーっと、あ、そうだ。香川きてうどんとか食べたか?」


「それそんな聞きたかった?」


倉本がケタケタと笑いながら言う。


「うん。はな◯うどんとか◯亀製麺とかいっぱいあったね」


「あ、ねえ、知ってた? 香川県民はうどんを噛まずに吸うらしいよ」


「らしいよって、倉本さんも香川県民では…」


倉本に聡がツッこむ。


笑いが起こる。そんなこんなで昼食が終わる。



「じゃあまた帰りにな」


「おす」


聡が返事をし、教室へ帰って行く。


「いやー、ちょっと居眠りしちゃっただけなのに噂になっちゃうとは」


「まあ、初日だからな。でも、しんどかったら無理するなよ」


そう言うと、アカリは嬉しそうな顔でうなずいた。


チャイムがなって先生がくる。授業が始まる。今度は物理だ。


物理だけはどうしても苦手だ。必死にノートを取る。あまり理解はできていない。


「じゃあ、この問題小鳥遊にやってもらうか。いけるか?」


隣の席が当てられた。そういえば教科書見せるの忘れてた。大丈夫かな。そんな心配をよそに、アカリは席を立ち、黒板の前まで小走りで駆けて行き、チョークを走らせる。


「おし、正解だ。みんな拍手」


パチパチパチと拍手が起こる。そのリズムでアカリも駆けてくる。


「本貸すの忘れてたけどすごいな。物理得意なのか?」


「物理と化学は得意科目ですっ」


「へー。俺は理科が苦手だから。そうだ、また机くっつけるか?」


「うん。ありがと」


音が鳴らないよう、そーっと机を動かし、間に教科書を置く。授業が進行する。教科書をめくろうと手を伸ばす。2つの手が重なる。


「あ」


「あっすゎっ…」


慌てて手を離す。変な声が出た。さっきはア…アーンとかしちゃったのに。隣にはクスクスと笑う女の子がいる。


「何今の声。すゎって」


「……っく」


恥ずかしい。少し熱くなる顔を隠すように、ノートを取り始める。横からページを捲る音が聞こえる。結局、ページ捲るの忘れてしまっていた。互いに下を向いてノートを取り続ける。


2人の横顔を、柔らかな斜陽が照らした。


***


今話も最後まで読んでくださりありがとうございます。アキツです。


皆さんの応援が今後の執筆の大きな励みになります。


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