20話 女子高生にはキケンが多い!?

色々とトラブルもあったけれど、

人生初の友達と行くプールは無事に楽しく終わった。


そして数日後、いつもの教室。


「えー!!ゆかっちナンパに遭ったの?!大丈夫だった?」

桐谷さんが机に身を乗り出してきた。


「あ、うん……でも翔が助けに来てくれたから」


「大変だったね……最近そういうの増えてるし。私もこの前モールで追いかけ回されて困ったのよ」

白石さんも心配してくれた。


「ありゃ〜、みんな苦労してるんだね」


「なは〜、今どきの女子はおしゃれだからなぁ。ナンパする側もあの手この手で試行錯誤してくるんだろうな。私は剛と一緒にいるから大丈夫だけど」


女子って、本当に大変なんだな。

俺は内心そう呟く。

もともとインドア派だったし、夜に出歩くことなんてなかった。

でも今は女子の立場で、

その「か弱さ」や「無防備さ」を、身をもって実感している。


「いいなぁ、光は。私も彼氏作ろうかなぁ」


うっ……!

“彼氏”って単語が妙に胸に刺さる。

その瞬間、心のどこかで“白石さんに彼氏ができる”という映像が浮かんでしまい、

なぜか背筋がゾワッとした。


ダメだ、落ち着け俺。

白石さんは美人だし彼氏には困らないし…

俺の方が体格が小さいし…正直守れる自信がない…


「なはは!彼氏は作るものじゃなくて、気づいたらできてるもんだぞ!」


「そうね。そういうのは、気持ちが大事だしね」


(よ、よかった……なんか、まだ“誰か特定の人”がいるわけじゃなさそう……)


いつの間にか恋バナへと話が変わる

そこに真桜さんが追い打ちをかけてくる。


「へへへ〜、私実は〜見ちゃったんだよね〜」



「見ちゃったって……何を?」


「ゆかっちと兄ぃが〜、手を繋いで帰ってたの♡」


「「!!?」」


「ええ!?いやいや!あ、あれは……こ、怖かったからっ!!」


慌てて両手をぶんぶん振る。顔が真っ赤になりそう…


「どぇぇ!?ゆかっち!!見かけによらず積極的だな!」


「なんて……大胆……!」


「ち、違うってば!!桐谷さんも白石さんも誤解だよ!あの時ほんとに怖くて……!翔が助けてくれて……!」


俺は必死に弁解する。

だが内心は、別の意味でパニックだった。


(な、なんで真桜さん知ってるんだ!? あの時いなかったのに! どこで見てたんだ!?)



あの瞬間のことを思い出すたびに、胸の奥がざわついた。


恋人でもないし、俺と翔は男同士……いや、元・男同士……?

取りあえず“友達”だ。そう、友達なんだ。

なのにあんなふうに手を繋ぐなんて……違うんだよ、翔。

決して狙ってるとかじゃなくて……ただ、あの時は身体的に怖かっただけなんだ……。


「翔はね、あの時、大学生くらいの男を……合気道みたいに倒してくれて……」


「うんうん、流石は兄ぃだ。よくゆかっちを守ってくれたぞ!」


真桜さんはどこか誇らしげに笑う。


「へぇ翔くんって本当になんでもできるのね。真桜もできるの?」


「できるよ〜。兄ぃと私は立場上、護身術とか習わされたんだよ。まぁ、面倒くさかったけどね〜」


「はぇ〜……立場上って、やっぱお嬢様だなぁ〜」

桐谷さんが感心して腕を組む。


立場上……やっぱり神宮寺家ってただの金持ちじゃないんだよな……そりゃ、世界的にも有名な製薬会社で

こんな秘密裏な実験もしてた訳だし…

俺も護身術を覚えておくべきか?


「それじゃ、みんな今度教えてあげよっか!」


「ゆかっちにはナンパ対策ととやばい男まとめ!」


「えぇ…、そんなのあるの?」


俺が思わず聞き返すと


「あー!そういえばこの前の試合のとき!観客席に見知らぬ男がいてさ、カメラずっとこっち向けてたんだよ!」


「それ、盗撮じゃない? 陸上部ってユニフォームの露出多いから、そういうの狙って動画あげる人、結構いるのよね……」

白石さんが小さくため息をつく。


「ひ、ひぇぇ……」


俺は思わず背筋をのばした。

女子って、こういう情報を共有し合うんだな。

ちゃんと身を守るための知恵。

まだまだ俺も学ぶことが多そうだ……。


場面は変わり…1組



翔は机に伏せ、深く唸っていた。

ペンが手から転がり落ちても拾う気になれない。


(ああああああ!!!!きっっっっっっつ……!!!

なんだよ「俺から離れるなよ」…って!!今どきの漫画でも言わねぇぞ、そんなセリフ……!頭が痒くなる…!!)


両腕で頭を抱えながら、顔を机に埋める。


(でもよ……アイツが、あの時…手を握ってきたんだぞ?

あんなシチュエーションでテンション上がらない男なんているわけねぇだろ)


頭の中で何度もあの瞬間がフラッシュバックする。


(……はぁ……マジで痛い奴だと思われてないかな、俺)



神宮寺翔……彼は今、初めて誰かに心を奪われていた。


容姿端麗、文武両道。

名家・神宮寺製薬の跡取り息子として、家柄にも恵まれている。

中学から今に至るまで、

同級生はもちろん、先輩にも後輩にも、

彼を想う者は絶えなかった。


だが翔は、決して自分から誰かに告白したことがない。

むしろ、好意を寄せられることに慣れすぎていた。

告白されても、断っても、心が動くことはなかった。


なぜなら

モテることが、彼にとって日常だったからだ。


そのうち、彼はいつしか恋愛そのものを研究対象のように見るようになっていた。

誰がどんな仕草で、どんな表情で惚れていくのか。

まるで心理学やデータの一部のように。


だからこそ

神宮寺翔という男には「心から追いかけたい人」など、存在しなかった。


その日までは。


初めて、嫌われたくないと思った。

初めて、追いかけたいと思った。

初めて、奪われたくないと思った。


その相手が、前川裕香。

かつての「男友達、前野裕貴」であり、今は「少女」になった存在。


彼の完璧な理性は、その瞬間から少しずつ崩れ始めていた。



「おーう、翔。最近よく机に突っ伏してんな、悩み事か?」

いつもの調子で剛が声をかけてくる。


「まぁな」


「研究のことか?」


「半分あってる」


「じゃあ恋愛か?」


「半分あってる」


「どっちだよ」


「……俺にもよくわからん」


剛はポカンとした顔にある。

「そうか。まぁ俺でよけりゃ話くらい聞くけどな」


翔は苦笑し、心の中でぼやいた。


(話か……。昔、女装した男が気になって、“女になってくれないかな”と思ってたら、

本当に女子になってそっから好きになったなんて相談…

誰にできるんだよ)


顔をあげ、ため息を吐く。

「いや、大丈夫だ。……前例がない。というか、歴史上初の案件だな」


「お、おう……なんかよくわかんねぇけど、まぁ頑張れよ。ほら、移動教室だし行こうぜ」


「……ああ」

(もうAIに聞いてみようかな)


その時――


ピコンッ!


スマホの画面に通知が光った。

【今日、良かったら一緒に帰らないか? この前のお詫びもしたいし】


「………………しゃっ」



──放課後。


「……………………」


「……………………」


学校が終わり、ほんの少し時間が経った夕方。

二人並んで帰る裕香と翔。

オレンジ色の夕日が校舎のガラスに反射して、空気がやけに気まずい。


「え…と……」

(やっぱり気まずい!!案の定!!いや、違うんだ翔!

 俺は恐怖を感じて咄嗟に手を握っただけで、決して変な気持ちがあった訳じゃないんだぞ!?)


そんな心の声が暴走する中、翔が口を開く。


「裕香……その、もう大丈夫か?」


「え!?……あっ、う、うん!大丈夫だ!この前はありがとう! 守ってくれて…なんていうか……頼もしかった!」


「そうか……それなら良かった」


短いやり取り。

でも、言葉よりも沈黙の方が長く感じる。

まるで時間が伸びてるみたいだ。


(うわぁぁ……気まずい……!!

でも翔にこれ以上気を遣わせるのも悪いし……)


ゆっくりと歩きならがら俺は翔に提案した。


「この前のお礼で、飯に行こう。ここは俺が奢る」


「……!?!?」



「おいおい!そんな悪いって!俺はそんな大したことしてねぇぞ?」


「いつも世話になってばかりだからな。たまにはお返しぐらいさせろよ」


「そ、そうか……それなら……お言葉に甘えて」


(……これって……放課後デート……だよな!?

 お、俺……放課後デートしちゃってもいいのか!?

 うおぉぉおおお……!!

でも良かった……裕香、俺のこと痛い奴って思ってなさそうだし! 嫌われたらどうしようかと……!!)


ただ、心の奥では。


(……でも、手作り料理とかの方が……嬉しかったりするんだよな)



カフェ。

放課後の柔らかな光が差し込む店内。

落ち着いたジャズのBGMが流れる中、


翔はホットコーヒーとサンドイッチを、

俺はカフェラテとパフェを前にしていた。


「パフェ、好きだったけ?」

翔が何気なく尋ねる。


「最近はこれが俺の中でトレンドなんだよな〜」


甘い香りとミルクの匂いが混じる空間。

少し気恥ずかしいが、居心地は悪くなかった。


食事を挟んで、会話を切り出す。


「そういえばさ、真桜さんから護身術をちょっと教わってな…」


「ほう?」


「それをきっかけに色々話してたらさ…女子って、

大半が何かしらのセクハラ被害に遭ってるんだって。

 痴漢とか、盗撮とか……ナンパも、まぁその一種なのかなぁって」


「そうか……」


「男子の頃は、そんな異性とのトラブルなんて全然縁がなかったけど、

この姿になってみてわかったよ。女子って……ほんと大変なんだなぁって。とほほ」


女子高生――と聞けば、青春の中心。

憧れの的。

キラキラした存在に見られがちだ。


けれど、その実態は想像よりもずっと複雑で、

不安や怖さも隣り合わせなのだと、知った。


「裕香も……苦労してるんだな」


「も?……ということは、翔も?」


翔はため息をつき、淡々と答えた。


「俺はな……1年前にストーカーが5件。

盗撮は30件。過激なラブレターは100枚は超えたかな」


「お、おぉ……」



「“付き合ってくれなきゃ首を吊る”なんて手紙もあった」


「……笑えねぇな、それ…」


翔は苦く笑った。

「SNSでも勝手に俺の名前で争ってるしな。

 まぁ……異性からの過剰な接触には、ある程度理解がある方だ。まぁ真桜に比べたらまだマシだがな」



「真桜さんも…翔も…そんなことがあったなんて、知らなかったよ」


「別にいちいちいう事じゃないしな。男も辛いぞ〜?」


「ははは……イケメンも女子も大変なんだな!俺、知らなかったよ!」


「裕香、むしろ、お前が俺のこと理解してくれてるまであるからな」


「おぉ……それは自慢だな!」


2人の間に、自然な笑いがこぼれる。

どこか気恥ずかしいけれど、心地よい沈黙。

今だけは“男子と女子”という境界を越えて、

昔みたいに、ただの「友達」として話せた気がした。


(ああ……やっぱり翔とは、こうやって笑ってるのが一番しっくりくるな)



もうすぐ夏休み――。

そして、あの“海の日”が、すぐそこに迫っていた。



オマケ


夜、神宮寺邸。


翔は静まり返った自室で、

スマホを片手に小さく息を吐いた。


「……あまり期待はしてないけどな。

 最近のAI、どこまで答えるんだ?」


アプリに指を滑らせ、彼は淡々と入力を始める。



---


【高校生の恋愛相談】

好意の相手と付き合うために有効な行動案を提案して下さい。


相手は元々男子でした。

しかし女装が似合うくらいには容姿が中性的です。


私は研究員です。

性別を変換する研究をしており、

彼を匿う形で彼女への変換を実行しました。


現在、彼女は見た目は女性ですが、

性自認や性的指向はまだ男性のようです。


私は容姿、実績ともに高い評価を得ています。

その上で、彼女との関係を進展させるための

有効な行動をいくつか提案して下さい。



送信そして数秒後、画面に返ってきた回答…



AIの回答:


1. 相手の「現在の性の在り方」を尊重すること。



2. 過去を否定せず、今の“彼女”としての選択を支えること。



3. 研究対象ではなく、一人の人間として接すること。



4. 愛情を行動で示すより、まず信頼で築くこと。



5. それでも惹かれるなら――あなたの想いは本物です。




翔はしばらく無言のまま画面を見つめ、

やがて小さく苦笑した。


「……AIのくせに、正論ばっかり言いやがるな」


指先でスマホを伏せ、小さく呟く。


「結局のところ、答えなんて出るわけないよな……

 でも手探りでも、進むしかないか」


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