第42話 衝撃の事実
「じゃ、早速始めよっか!」
家に帰り、夕食を食べ終えた後に柚木さんが立ちあがった。
そしてカバンから教科書たちを並べ出す。
「……やっぱりやるのか」
帰り道で話した通りの勉強会。
彼女の口振りからしてやらないわけがないと思っていたけど、いざ目の当たりにすると抵抗がある。
なぜなら俺は勉強が嫌いだからだ。
「当然じゃん! だから今日のご飯清水君の好きな唐揚げにしたの」
「鞭の前の飴だったわけか……」
「そーゆーこと! じゃ教科書とノート開いて~。今日は数学からやるよ」
どうやら教科も指定らしい。
事前に把握されていたのかは分からないが、俺は数学が1番苦手な教科なので助かる。
計算自体は不得意ではないけど、問題は使う公式だ。
適した公式を使わないといけないので公式を覚えるのに手間取る。
しかも時には応用問題とか言って公式をちょっと変えた使い方をしなければならない。
こんなもの覚えたところで、どうせ社会に出たって使う機会殆どないだろうに。
「うーん……」
そして早速ある問題に手間取った。
シャーペンでおでこをつつきながら唸る。
駄目だ。分からん。
授業中で同じことが起こったとしても、俺はきっと放置していたことだろう。
しかし今は隣に柚木さんという先生がいる。
勉強会というのを提案してくれたのも彼女なので、ここは素直に甘えることにしよう。
「ねえ柚木さん、この問題なんだけど」
「うん? どれー?」
指で示した問題を見るためにそっと柚木さんがこちらに近づく。
ふわっと揺れたツインテールから甘い香りが漂い、彼女の肩が俺の胸に触れる。
ほぼ俺に寄りかかっていると言っていい。
「あ~。これはね~。ここをこうして……」
しかし本人はそのことを全く気にしていない様子で、解説をしながらノートに途中式を書き始める。
しかし俺の耳には解説は殆ど入って来なかった。
こうして柚木さんが寄りかかってきて、改めて思うことがある。
どうして俺にここまでしてくれるのだろうと。
こうやって俺の隣に居てくれるのだろうと。
「――清水君聞いてる?」
「え? あ、ごめん。聞いて無かった……」
完全に自分の世界に入り込んでしまっていた。
すると柚木さんは分かりやすくリスのように頬を膨らませる。
「もー! ちゃんと聞いて! じゃあもっかい言うからね!」
今度は聞き漏らしのないようにしっかりと耳を傾ける。
そうだ。今は勉強会だ。
せっかく柚木さんが俺のためにやってくれているのだから、しっかり聞かないと失礼だ。
……そう言えば何で勉強会してくれるのか聞くの忘れてるな。
◆◆◆
「で、何でだと思う?」
「そんなの恵奈に聞けばいいじゃん」
バッサリとド正論で切り捨てられた。
次の日、登校したら丁度昇降口で如月さんに会ったので勉強会のことを話してみた。
如月さんは俺と柚木さんの関係を知っているので話しても大丈夫だろう。
「話は終わり? じゃああたし今日日直だから」
会話を終えると如月さんはスタスタと歩いて行ってしまった。
柚木さん経由で話す機会は増えたが、距離が近づいているのかはいまいちわからなかった。
「よう清水! 朝から随分と勇敢なことをしたな」
後ろから暑苦しい声が聞こえ、振りかって見ると石橋が立っていた。
どうやらちょうど今登校してきたらしい。
「勇敢? どういうことだ?」
石橋の言っていたことが気になって問いかけてみると、上履きを吐きながら石橋は答えた。
「そりゃお前、如月に話しかけることに決まってるだろ。特に朝は機嫌が悪い時が多いからな。空腹のライオンに近づくようなもんだ」
「前から思ってたけどお前って如月さんのこと何だと思ってるんだよ」
「狂暴な肉食獣」
「早いな」
秒で返ってきたことに思わずツッコんでしまった。
1ミリの迷いが無かったことを考えると、こいつは本当にそう思っているのだろう。
「そんなに如月さんって怖いか?」
純粋な疑問を投げかけると石橋がブルブルと震わせた手を俺の肩に乗せてきた。
「お前はまだあいつの怖さを知らないんだ! あ、あいつは……悪魔だぞ!」
「さっきは肉食獣って言ってただろ」
「肉食獣の悪魔なんだ!」
「あー。はいはい」
もはや聞くのが面倒になってきた。
「ってか、お前がそんな風に言うからじゃねえか?」
「そんなことないぞ。だってあいつ、小学校の時に俺の下駄箱に嫌いな蛙入れてきたからな」
「蛙って……。ん? 何でそんな昔なこと知ってるんだ?」
「あれ? 言ってなかったか? 俺、如月と幼馴染みなんだよ」
「――は?」
何気ない会話から発生した衝撃のカミングアウト。
あまりの出来事に俺は完全に身体が固まってしまう。
如月さんと石橋が、幼馴染みだと……。
間違いなくここ最近で1番の衝撃であった。
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