第33話 脳筋に揺さぶられるとは思わない

 体育祭、午後の部が始まる。

 柚木さんに昼食を分けてもらったので空腹はない。

 むしろいつもより満腹感が強いくらいだ。

 午後の俺の出番は最後いやるリレー。

 それまでは出番が無いので応援席で精一杯応援することにしよう。

 柚木さんを含め、他のリレーメンバーは午後に出場する人も多い。


「……隣良いか?」

 応援席の最前に座っていると巨体が近づいてきて、渋い声を発しながら話かけてきた。

 一緒にリレーを走る大塚である。


「もちろん」

「失礼するぞ」


 一言断ってから隣に座る。

 誰を応援するのかと思いきや、なぜか大塚は俺のことをジロジロと観察を始めた。

 俺はグラウンドの方を見ているわけだが、視界の右の方があまりにも存在感があり過ぎた。


「な、何か用か? そんなに俺を見て……」


 意を決して聞いてみるが、大塚は俺から視線を外さなかった。

 むしろ目つきを一段と鋭くさせる。

 まるで獲物を狩る肉食動物のようだ。

 尋ねても少し無言だった大塚は、ようやくゆっくりと口を開いてこう呟いた。


「……お前、プロテインを飲んでないのか?」

「……はい?」


 突拍子もないことを言われて固まってしまうが、一度開いた大塚の口は簡単には閉じなかった。


「清水、お前の筋肉が栄養失調を訴えてる。今すぐプロテインを摂取した方がいい。俺は筋肉の声が聞こえるんだ。わかる。俺には分かるぞ。お前の筋肉はプロテインを欲してる。だから今すぐこれを飲むんだ」


 そう言ってポケットから水に溶かす粉末タイプのプロテインを取り出した。

 いや、何でいま持ってるんだよ。

 せめてカバンに取りに行けよ、というツッコミが口から出て行くことはなかった。


「早く。1秒でも早く飲まないとお前の筋肉がしぼんでしまう。こうしている間にも多くの筋肉が犠牲になっている」

「いやいやいやいや。そんな簡単には萎まないだろ。というか、それで萎む筋肉って必要あるのか?」

「なっ……⁉」


 俺の放った一言は想像よりも大塚に衝撃を与えてしまったらしい。

 口を大きく開けたまま固まってしまう。

 絶句するという言葉は今の大塚のためにあるのだろう。


「ふっ。さ、さすがは清水……。俺よりも先に筋肉の高見にいるとは」

「いや全然いねえよ。お前よりも低いよ」

「謙遜するな。お前は立派だ」


 駄目だ話は通じねえ。

 ファーストコンタクトの時はもう少し話せる奴だと思っていたが、関係が近づけば近づくほど話が噛み合わない。

 そう言えば澤田さんが言ってたな。

 塚っちのツッコミを1人でやるのは大変だって。

 今ならそれがめちゃくちゃ理解できる。


「そう言えば大塚って澤田さんと仲良いよな」

「ああ。それはあいつがバレー部だからな。俺はバスケ部だから練習場所が被ってる」

「なるほど」


 通りで大塚のことをよく知っているわけだ。

 ……というか部活の時には澤田さんが1人でこれを担っているのか。


「思い出したが、以前澤田がこんなことを言ってたぞ」

「何だ?」

「清水と柚木が付き合ってるんじゃないかって話だ」

「――え?」

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