第8話 男子が苦手
彼女が俺を見つめる目に敵意のようなものを感じる。
さっきの質問的に俺が柚木さんと話し始めていることに疑念を抱いているのだろう。
柚木さんがモテるのはよく知っているし、あわよくばを狙って近づく男どもが多いということも把握している。
恐らく如月さんは俺をそのうちの1人だと思っているのだろう。
「別にただのクラスメイトだよ」
「ただのクラスメイトにジュース奢ったりする?」
秒で返答してきて、思わずドキッとする。
どうやら昼休みのことを如月さんに話したらしい。
「場合によってはするんじゃない?」
そんなわけがない。
『奢る』という行為はそれなりに関係が築いていないとやらない。
でもこの状況を乗り切るためには適当な理由で乗り切るしかないのだ。
「ふーん」
ジト目で俺のことを見ながら如月さんはさっきの発言を受け止めようとする。
だが俺への疑いは晴れていないような声色で、何を言われるのか心臓がドキドキしていた。
「あんたが恵奈のことどう思ってるのか知らないけど、あんまり近づかないでくれる?」
「何でだ?」
試しに聞き返してみた。
すると耳を疑うような内容が如月さんの口から吐き出される。
「あの子、ああ見えて男子が苦手だから」
「えっ?」
吐き出された言葉が深く突き刺さった。
頭の中で何度も何度も繰り返され、この僅かな時間でタトゥーのように刻まれる。
男子が苦手……?
当然だがそんな話は聞いたことが無い。
それと同時に頭の中で柚木さんと一緒に居た時間のことを思い出す。
もしかして今までも怖いって思いながらいたのかな。
俺に気を遣わせないようになるべく普通にふるまってたのかな。
「じゃ、そういうわけだから」
そこまで言い残し、如月さんはどこかへ行ってしまった。
俺は暫くの間立ち尽くしてしまい、動き始めたのは数十秒経過してから。
「ああ……分かった」
誰も聞いていない返事を小さな声で呟いた。
◆◆◆
「お邪魔しまーす」
夜の7時。
いつもの時間に柚木さんは家にやってきた。
今日も今日とてお惣菜をタッパーに詰めて。
「今日はね、前食べたいって言ってたコロッケ持ってきたよ。じゃーん」
見せつけるように蓋を開けてこちらに差し出す。
中にはこんがり揚がったコロッケがあって、実に美味しそうだった。
「お、旨そう」
「でしょ~。あ、今日ちょっと先にシャワー借りてもいい? 体育で汗かいちゃったからさ」
「いいよ別に」
「ありがと。じゃあちょっと行ってくる」
机の上に持ってきた総菜たちを置いて、柚木さんは浴室の方へと向かった。
もう何度も何度も使っているのでその歩みに迷いなどはない。
ドアが閉められたのを確認してから、俺は緊張の糸を解くように大きく息を吐き出す。
「ふう……」
普段通りにできたよな?
放課後に如月さんから言われたことが記憶に刻まれていて、柚木さんとどう接したらいいのか分からなくなっていた。
でも突然拒絶できるわけもなく、とりあえずいつものようにしようと思ったのだ。
俺としては最大限の努力をしたつもりではある。
本人は気づいているのかもしれないけど。
「……どうすればいいんだ」
天井を見ながら考えても答えはでず、ボーっとしていたらシャワーを終えた柚木さんが出てきた。
「ふう~。涼しい~」
ほぐされたような声を出しながら出てきた柚木さんは、昨日のパジャマとは違うものを着ていた。
彼女の服装は白いシャツにショートパンツという、かなり肌が露出している恰好
それまではピンク色の長袖長ズボンパジャマだったが故に目のやり場に困った。
加えて今は風呂上りということもあって、学校とは違う独特な雰囲気に心臓がドキッとする。
「……柚木さん、さすがにその恰好は」
「ん? 何? 何か変?」
「いやそうじゃなくて、こう……。何というか……。一応ここも男の家だから……」
言葉に迷いながら伝えると柚木さんはハッとしたような顔をして、急いで自分の体を抱きしめる。
ちょっとばかし顔を赤らめ、俺のことを睨んで来る柚木さん。
「……清水君のエッチ」
「まだ何もしてないだろ! それに別に何かするとかは考えてない!」
「ほんと~?」
煽るようにして彼女は尋ねてきた。
ちょっとムッとした俺は直ぐに言葉を返す。
「ほんとだよ! 大体、男子苦手って言われて手出せるわけもないだろ!」
勢いに任せてしまったからか、思わず口から漏れてしまった。
急いで訂正しようとしたけれど柚木さんの顔を見てそれを諦める。
なぜなら、彼女はポカンと口を開けながら固まっていたからだ。
驚きや焦り、不安感など様々な感情が入り混じっているような、そんな顔だ。
柚木さんは静かに座って真剣な眼差しで俺のことを見つめる。
「今の、誰から聞いたの?」
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