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ぎゃあああ!
耳をつんざくような悲鳴が聞こえる。というかそれは私の口から放たれていた。
これが叫ばずにいられるか!
玄関を出たらノータイムで生首。いや、ノータイムじゃなくても生首なんて見たら悲鳴のひとつもあげる。
「うわ、ごめんなさい。そりゃ驚きますよね。でも、マズイかも。大声は」
生首に冷静に諭されるなんて初めての経験だ。
「って、生首がなんで喋るんだよ! どういう仕組み!?」
「それは……あの、とりあえず中に入れてもらえませんか? ご近所迷惑ですし、通報されちゃうかも」
「……」
それは避けたい。
私は生首の後頭部に右手を添え、左手を首の下 (こんな言葉があるのだろうか)に入れて支えた。そして誰かに見られていないことを確認してから部屋へ戻った。
まさかこんな形でとんぼ返りすることになるなんて!
私は早足で居間へ向かった。そしてテーブルに生首を置いて、少し距離を取った。生首はほうと息を吐いてキョロキョロと視線を動かす。
異様だ。
「マジなに? どういうこと? 説明してくれるんだよね!?」
「はい。でもその前にこの、ここの額のとこの汗を拭いてくれませんか? 走って来たので汗かいちゃって。まぁ、『走って来た』って言っても足は無いんですけど」
そう言って生首はガサガサした音を発した。表情から察するに、おそらく笑っているのだと思う。
生首ジョークはやめてほしい。というか本当にどこからどうやって私の部屋まで来たんだ。
そんなことを思いつつ、生首の言う通りその辺に放置していたフェイスタオルで額を拭いてやる。生首は「ありがとうございます」と丁寧にお礼を言った。
「どういたしまして。ほら、拭いてあげたんだから教えてよ」
「もちろんです。あ、その前にせん……」
生首が何かを言おうと口を開いた時、インターホンが鳴った。少々迷ったが私は生首を手で制し、インターホンモニターで来客が誰なのかを確認した。
そこに映っていたのは三十代くらいの男性だった。隣室の住人だ。
「あ、はい。なんでしょう?」
「あ、ども。隣の大川です。なんか、大丈夫ですか? 大きな声聞こえてきましたけど……」
ちらりと生首を見る。それはキョトンとしていた。あんたのせいだよ。
「だ……大丈夫です。うん、大丈夫です。ええと、あー、そう、ゴキブリが出て! そうそう。でも大丈夫ですから。すみません、うるさくしちゃって」
咄嗟に嘘をつく。出かけようとしたら突然生首が現れてびっくりしましたー、なんて言えない。
「そうなんですか? もうやっつけました? もし困ってるのなら僕が駆除しますよ」
「いやいやいやいや、もう大丈夫です! お気遣いなく!」
「え、でも叫ぶくらい苦手なんでしょ? 遠慮しなくてもいいですよ」
なんでこんなに食い下がって来るんだ。私と彼とで押し問答をしているとしびれを切らしたのか生首が大声で喋り始めた。
「結構です! もう私が退治したので! この手で叩きつぶしてやりましたから、お引き取りください!」
音量が大きくなったからかノイズがさらに酷くなったが要点は大川さんに伝わったらしい。
「あー、なんだそうですか。それじゃ」
大川さんはそそくさと帰っていった。
「……手なんてないじゃん」
「もー。危ないですよ。絶対あいつ『あわよくばお近づきに……』なんて下心満載でしたよ!」
また生首に諭されてしまった。でももとはと言えば、突然現れた生首が悪いのでは?
「……それで、さっきはなんて言おうとしたのかな。雪ちゃん」
私の呼びかけに生首……もとい雪ちゃんは目を見開いた。驚いているようだ。
「なんだ、覚えててくれたんですね。とっても嬉しいです。夏未先輩」
雪ちゃんは昔の面影を残した顔でにっこり笑った。
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