第9章「新たな伝説」
海賊との戦いから一週間が過ぎた。村は急速に復興し、普段の生活を取り戻しつつあった。しかし、何かが決定的に変わっていた。村の浜辺には、海の民の姿が当たり前のように見られるようになったのだ。
これまでは伝説とされてきた海の民が、今や村人たちと共に働き、語らい、笑い合っていた。最初こそ戸惑いもあったが、共に戦った絆は強く、すぐに相互理解へと変わっていった。
海賊たちはこの村と海域から完全に姿を消した。未曾有の海と陸の連合軍の力を目の当たりにした彼らは、もはやこの地に近づくことはなくなった。周辺の海域は安全となり、村の漁業は飛躍的に発展していった。
勘助は自らの罪を償うべく、村の警護部隊「海陸守」を組織した。海の民の戦士たちとも連携し、村と海の安全を守るための訓練を日々重ねていた。
「今日も厳しい訓練だったな」過去の太郎—もはや「過去の」という言葉は不要となっていたが—は勘助に声をかけた。
「はい、村長」勘助は汗を拭いながら微笑んだ。
「海の民から学ぶことは多いです。彼らの水の操り方は見事です」
太郎も頷いた。
「海と陸、互いの長所を活かせば、どんな敵も恐れることはない」
「太郎殿」
振り返ると、乙姫が近づいてきた。彼女の隣には、海斗の姿があった。
「父上からの知らせです」乙姫は嬉しそうに言った。
「海と陸の和親の証として、公式な結婚式を行いたいとのことです」
「結婚式?」太郎は驚いた。
「はい」海斗が説明した。「太郎殿と姉上…そして恐縮ながら私とおつる殿の合同結婚式です」
太郎の顔に喜びの表情が広がった。 「なんと!それは素晴らしい!」
おつるも近くに来ていて、顔を赤らめながらも幸せそうな様子だった。
「海斗様と私…まだ信じられないくらいです」
「海陸の架け橋となる、素晴らしい縁組だ」太郎は二人を祝福した。
「そして」乙姫が続けた。
「父上はもう一つ、提案があるとおっしゃっています」
「何だろう?」
「あなた…未来から来たもう一人のあなたのために、記念碑を建てたいそうです」乙姫は静かに言った。
「彼の勇気と犠牲が、私たちの今日を作ったのですから」
太郎の目に涙が浮かんだ。
「それは…本当に素晴らしい提案だ」
彼は胸元に手を当て、そこに収められたミラのお守りを感じた。
「彼の勇気と愛を、永遠に忘れないためにも」
数週間後、村と海の境界となる崖の上に、美しい記念碑が建てられた。白い石で作られた太郎の立像は、まるで生きているかのように海を見つめていた。その台座には、「時を超える愛と勇気の証」という言葉が刻まれていた。
記念碑の祭殿には、太郎が大切に持っていたミラのお守りが、水晶のケースに収められていた。朝日が差し込むと、そのお守りは美しく輝き、見る者の心を温かくした。
合同結婚式の日、村と海の民はかつてない祝祭で沸いた。海の王は威厳ある姿で式を執り行い、新しい時代の幕開けを祝福した。
「我が娘と太郎殿、そして我が息子と地上の娘、おつる殿の結婚は、海と陸が永遠に結ばれる証となる」海の王は力強く宣言した。
「今日より、我らは一つの民となる」
村人たちと海の民から歓声が上がった。太郎と乙姫、海斗とおつるの二組のカップルは、輝かしい笑顔で民衆に手を振った。
式の終わりに、太郎は乙姫と共に記念碑の前に立った。
「ここから、彼も見ているだろうか」太郎は静かに言った。
「きっと見ているわ」乙姫は優しく微笑んだ。
「そして喜んでいるでしょう」
「彼の犠牲を無駄にはしない」太郎は強く誓った。
「我々は海と陸の架け橋となり、この平和を永遠に守り続ける」
乙姫は太郎の手を握り、共に海を見つめた。新しい時代の幕開けを告げる潮風が、二人の髪を優しく撫でていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます