第91話 様々な提案

 私は、各部局から提出された教皇への懐柔策、いわゆるの提案に目を通した。

 軍部からは新たな聖堂の建設、枢機卿の派遣など無難な提案があったが、これは安易なものだ。

 そもそも聖堂建設や枢機卿の派遣などは、特にヒールランドの許可は無用であるし、許可が必要だということになれば問題になるだろう。

 軍部は今回の戦果の意味を取り違えているせいで、こうした提案が出てくる。

 今回の戦いで勝ったのは、ギュンター教の義勇軍であり、ヒールランド国軍ではないのである。


 農政部は農地改革を行って、教会に農地を与えるというモノだったが、規模が小さくては効果はないし、大きいとなるとエリー王国に教皇領が生まれることになる。

 なぜなら税の問題をどうするかということになり、農地を教会への寄付とするなら無税が前提になるからだ。

 教会への寄付は国が行うのは、政経分離の原則から外れるので認めることはできない。


 これに比べると、商工部はやや現実的だった。

 教会で何か道具や食品加工品を作らせて、当初は我が国の流通に乗せて、利益を多少なりとも確保してやり、特産品になるまで手助けをするという案だった。

 教会がある程度金を出すなら悪くない案である、だが、そのため純然たる飴というわけではない。

 なので、保留とした。


 外務は政治的に、三か国による通商条約の締結、内務は今回のような宗教な分派運動を防ぐ目的の組織設立などが提案されていた。

 三か国の条約となると、一つの勢力圏を構築したように見えるので、アリスタ王国のことを考えると、無用な警戒をされてせっかく作った隙を失いかねない。

 ベリーの苦労が水の泡になる、部長がいないせいもあったのだろうが、もう少し頭を使えと言いたくなった。

 内務の案は、いずれヒールランドで分派をつくることを構想として持っている私としては、逆行することになるので、無論却下である。


 今回はエリー王国を実質属国化するために、ギュンター教を利用したが、本来なら分派運動は裏から支援したいくらいなのだ。

 そのためにサントに布石を打っているのだ。

 まだ先なので、幹部にも明かしていない以上、こうした案が出たのは仕方がないが却下。


 のこったのは広報局である。

 ロアが自ら主導して立てたらしい、なかなか気合の入った提案書が届いていた。

 最後に届けられたらしいが、おそらくはギリギリまで作成していたのだろう。

 私が目を通したこれまでの提案書は、オーウェルも目を通しており、何か考えているようだったが、私同様、表情は渋い様子だった。

 私が官邸に誘ったくらいであるから、本来は内務のガーランドと共に部局に置いて色々と面倒なことを処理できる能力の持ち主である。

 おそらくここまでの提案に関しては、私とあまり変わらない感想を持っているのだろう。


 広報局長ロアの提案は、この中では発想も効果もその方向性が独自で、私は正直驚いた。

 そして、この提案であれば、一見教皇や教導国に利するように見えながら、私の加護を使って、ギュンター教に楔を打ち込むことも可能なのだ。

 しかし、私の加護は私が召喚したラプラス、ヴァルド、ジャック、テレジアしか知らない。

 なので、オーウェルは私の意図を知る由もなく、この提案に怪しいものは欠片もうかがえないはずだ。


 私は一読して、この提案がとして十分に効果を発揮するものだと思った。

「オーウェル司教、これが最後の提案になるが、これは良い。君から見てもなかなか魅力的なものだと思うが」

 そう言って、私は読み終わった提案書をオーウェルに渡した。

 

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