第68話 偉大な発見
「そのほかのスキル、水や念動にもそうした型があるのか」
「はい、火のスキルほど発動に際しても差がないため、現在はやや手探りで型の区別をしていますが、おおむね種類は三つほどのようなので、こちらも何らか区別する方法を確立できれば、蓄積された魔力からの吸収は可能と思われます」
私はここまでたどり着いたリリスの洞察力と分析能力を称賛した。
「これは世界的な、偉大な発見だ」
リリスは私の言葉に、恐縮するように首を振った。
運ばれたお茶を私は一口飲み、大きく息を吐くと言った。
「他のスキルはともかく、念動のスキルの型に関して注力してもらえないか」
リリスはわずかに疑問の表情を浮かべた。
しかし、すぐにそれを抑えて私に訊ねた。
「先日閣下は私に、研究者はその研究の結果による実用を考える必要はないと言われました。あれからそのことについて、私なりに考えました。ですが、そのお言葉を図り切れないのです」
「なるほど。あれは強いて言った言葉だ」
「それはどういうことでしょうか」
「実用を前提に研究することも私は否定しないが、それで研究対象が狭くなり、発展が妨げられることを恐れたのだ。実際、今回の魔力の型についてのことも、シャングリラで仮説を実証しようとしなかったのは、軍事的な実用に直接関係が無かったからだろう。その時は今回の発見は失われていたも同然だと思うが、違うだろうか。私が惜しいと思うのはそうした発見の機会を失ってしまうことなのだ」
リリスはそれを聞くと、驚いたように目を見開いたが、すぐにその目を伏せ、膝の上の手を握りしめた。
「私は愚か者です」
「何を言う。君が愚かというのであれば、私などは路傍の石も同然の存在だ」
私はそう言って声を上げて笑い、隣にいたメアリを見ると、さすがに困ったようにためらいがちにうなずいた。
リリスはその瞳に深い愁いを浮かべて言った。
「確かに私は魔術研究については人よりは優れているところがあるかもしれません。しかし、閣下がおっしゃられたことに全く気が付かず、つまらないプライドに目を曇らせていたことが恥ずかしいのです」
「気にすることはない。些細なことだ。私の説明で君が納得いったのであればそれでいい。演説でも言ったが、ヒールランドは国民一人一人が己の職分で力を尽くすことが重要なのだ。疑問を問い、解決したで良いのだ」
私はそう諭すと、リリスは落ち着いたようだった。
「しかし、一応君には、なぜ念動力を優先してほしいのかは教えておこう。私は現在軍の技官らに自走砲という兵器の開発を命じている。大砲を乗せた車両のようなものだ。その車両の動力に魔術師の魔力を使いたいのだ」
リリスは私の話を聞きながら、その瞳は何か考えているようだった。
「一種の運搬車両だが、重量と移動距離を考えると、従来の魔術師の魔力では、そこに何人もの魔術師を乗せなければならず、実用できる話ではなかった。だが、魔力を蓄積できる物質があれば、一人もしくは二人の魔術師によってそれが可能になるのではないかと考えているのだ」
「なるほど。同型の魔術師が込めた蓄魔石から、乗車している魔術師が魔力を吸収して発動し続ければ、連続使用できるということですね。ということは、魔力を蓄積するだけの物質の量と魔術師のレベルも実験する必要があります。あとは車両の重量ですね。少なくとも魔術師のほかに運転する者と砲兵が乗車する前提で重量を計算して実験を行う必要もあります」
リリスはさっそくやるべきことを考え始めていた。
「乗り越えるべき課題は多いが、一つ一つ解決してゆけば、必ず結果はついてくる。実用までの道のりは長いが、是非、この技術を成功させてほしい」
私のその言葉にリリスは、うなずき、必ずや成功させて見せますと力強く答えた。
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