第67話 研究所の報告

 演習の観覧から帰った後も、しばらくの間、不在だった間の各部署の報告と愚痴を、交互にラプラスから聞かされた。

 ラプラスは大概のことはそつなく対応していたが、一つだけ私でないと対応が難しかった部署の報告があった。


「魔術研究所のリリスからお時間を頂きたいとのことでした。何か新たな報告があるとのことです。私が行ってもよかったのですが、研究の県は詳しく知らないですし、リリスは人間ではないので、万が一入れ替わりがわかると面倒なので、時間ができたら行くと返事をするだけにとどめてあります」

 確かにリリスは魔力については、人の魔術師とは違うレベルにある。

 ラプラスの判断は正しい。

 私は時間ができたから明日にでも行く、と担当秘書官に伝えておくように命じた。


 翌日、私は担当秘書官のメアリを連れて、研究所を訪れた。

 リリスに会うのは久しぶりだ。

 小さな森の中にある研究所の建物は、以前は王宮に務める者専用の診療所と療養所だった。

 この世界では隔離するほかに病を防ぐ方法がなかったせいだろう。

 回復魔術はあるが、前世でいうところの対症療法に過ぎず、一時的に投薬で症状を緩和するもので、完全に治癒する回復魔法は、リリスのようにエルフでも限られた能力を持つ者だけだった。

 それでも重篤な状態に陥った者は絶対に回復できるわけではない。


 所内に入ると、いつものようにリリスが自ら出迎えてくれた。

「お忙しいとお聞きしておりましたので、わざわざ来ていただきまして感謝いたします」

「いろいろと細かな用事もあってな、時間を作ろうとしても、なかなか我がままを許してはもらえない」

 私はそう言って笑いながら、所長室に通された。

「それで今回はどのような発見があったのかな」


 私が依頼している件については、極秘事項なのでリリスが官邸に来ることはない。

 今一つの理由としては、研究所で発見された事実は報告だけではなく、私自身が確認するためでもある。

 リリスが虚偽の報告をするとは思えないが、逆にリリスだけを特別扱いにするわけにはいかないという事情がある。

 権力の周囲にはいろいろ面倒な感情が渦巻いているし、私にその気がなくともリリスが美しいエルフの婦人であるだけに、そうした配慮をする必要があった。


「先日閣下ご指摘いただいた魔力を魔石に蓄積し、それを魔術師が使えるのかという件ですが、魔力の型が一致する者であれば、魔石からの魔力吸収は可能であるといえる実験結果が出ました」

「魔力の型というのは初耳だが」

 ラプラスにすでに聞いてたが、この世界でそんなことは知られていないのでそういったのである。


「以前、私がシャングリラで研究をしていました時に、上位スキルの能力の持ち主になると、スキルの発現にいくつか決まった差が表れることがあり、スキルの種類とは別に同一スキルの中にも種別があるのではないかという仮説を持っていました。しかし当時はそのようなことは、何かに役に立つことでもないので、掘り下げて実験をすることはなかったのですが、今回は同じ火のスキルの魔術師の中でも吸収できる者とできない者が現れ、しかも蓄積した魔力のサンプルを変えると違う結果が出てしまったのです」

「なるほど。それは確かに奇妙だな」

 結論はわかっているが、私は腕を組んでリリスの報告に頷きながら耳を傾けた。


「まず火の上位スキルでは発現の時の色に差があるので、これを参考に型を分けて実験をし直しました。すると同じ型同士であるとほぼ完全に吸収が可能で、違いがあるとすれば魔術師の経験の差で、実験の結果を左右するものでは無いと考えるのが妥当と結論しました」

「で、その型はいくつあるのだ」

「三つです」

「であれば、利用に際してそれほど非効率にはならないな」

「はい、しかも最も比率の少ない型ですが、これを三型としますが、この三型は効率は落ちますが、他の二つの型との互換性があります」

 血液型でいうところのO型のようなものか、ラプラスが言っていた通りだが面白い。

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