第22章 公開裁判

【王暦424年・王都/玉座の間】


 玉座の間は、民や貴族でぎっしりと埋め尽くされていた。

 王が静かに玉座に座り、廷臣たちが整列する。

 その中央に、私とグレイ、そしてセドリックとヴァルデン男爵家が並んで立たされた。


「本日、この場にて全ての疑惑を晴らし、真実を明らかにする」

 王の低い声が響く。



 私は深く息を吸い、書簡束を掲げた。


「これが、ヴァルデン男爵家が辺境の村を襲撃し続けた記録です。

 毒灰の分析、捕虜の証言、そして村を襲った日時を記した日誌──全てが一致しています!」


 廷臣たちがざわめき、文官が一つずつ確認していく。


「確かに事実と符合しています」


 私はさらにもう一枚の書簡を取り出した。

 セドリックがヴァルデン男爵へ送った密書の写し。


「そしてこれが、私を再び断罪し、辺境伯領を弱体化させるための密談の証拠です!」


 広間がどよめき、貴族たちの視線が一斉にセドリックへ注がれる。



「で、でたらめだ! そんなものは捏造だ!」

 セドリックが叫ぶ。


 その瞬間、扉が開き、一人の兵士が駆け込んできた。

 かつて捕らえたヴァルデン兵の一人だ。


「全て本当です! 私が証言しました!」


 兵士の声が広間に響き、完全に空気が変わる。

 王がゆっくりと立ち上がった。


「セドリック、ヴァルデン男爵──汝らの罪は明白である」


 王の言葉に、二人の顔が蒼白になる。


「即刻、爵位を剥奪し、王都より追放する!」


 広間にどよめきが走り、民の間から歓声が上がった。



 私は深く息を吐き、拳を握った。


(やっと……やっと終わった)


 処刑台に立たされたあの日の記憶が、心の奥で静かに遠ざかっていく。

 もう二度と、私は無実の罪で殺されることはない。



 広間を出たところで、グレイが立ち止まった。


「よくやったな」


「……ありがとうございます」

 胸が熱くなり、涙が溢れそうになる。


「これで、お前は自由だ」


 その言葉に私は微笑んだ。


「はい。でも……私はもう、村に帰りたいです。あの場所が、私の居場所ですから」


 グレイがわずかに笑い、頷いた。


「帰るか。俺も一緒だ」


 夕陽が王都を染める中、私はようやく自由になった心で歩き出した。

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