第5話 清風湿潤


 / / S E:ぱた、ぱた、と、うちわのようなもので扇ぐ音


「……少し落ち着いた? ごめんごめん、つい、気持ちよくてさ。君がのぼせちゃったのも気がつかないで、ずっと抱きしめちゃってたよ。気分は……?」


「そう、よかった。これ、飲んでおいて。君の身体にあわせて調合した、特製の補水液。君は汗もかくし、そのほかも人間と同じだからね。水分は忘れずに補給しなくちゃいけないんだ」


 / / S E:きゅ、と蓋を開ける音


「ゆっくりでいいから、しっかり飲んで……少し窓を開けて夜風を入れようか」


 / / S E:かちゃ、と鍵が開き、軋みながら窓が開く音

 / / S E:さあっ、と風が吹き通る音

 / / S E:小さく樹々のざわめき、りぃ、りぃ、と虫の声


「ああ、気持ちいい。ずいぶん涼しくなったね。もうあとふた月もすれば雪がちらつくようになる。今年も初雪、一緒に見ようねえ」


 / / S E:しばらく葉擦れの音、虫の声


「……ん、もう大丈夫? それじゃあ、髪を乾かしていこうか。まずはタオルドライ。背中に回るからね」


 / / S E:左右から、髪をごわごわ、ごわごわ、とタオルで揉む音


「耳のなかも拭いていくよ。少しくすぐったいけど、我慢して」


 / / S E:右、左、右、左、と、耳かきで奥を擦るような音


「さ、いいかな。じゃあ今度は、ドライヤー」


 / / S E:かち、というスイッチ音、それからごうっ、という風の音

 / / S E:右でしばらく揺れるように音、それから左

 / / S E:さら、さら、と指で髪を掻きあげる音


「ブラシも入れていくよ」


 / / S E:ドライヤーの音が遠ざかる

 / / S E:すう、すう、と、髪にブラシが通る音、左右で数回

 / / ブラシの音が聴こえたままで、ヒスイの声が被せられる


「……ふふ、うっとりしちゃって。気持ちいいんだねえ。そうだよ、君が生まれた日からずうっと、毎日こうやっているからね。君が好きなこと、気持ちいいところ、なんでも知ってる。だから……」


 / /ヒスイ、右の耳元に口を近づける。


「……君が帰るのは、あたしのところ」


 / / ドライヤーの音が止まる。


「うん、これでいい。じゃあ次は、保湿をしていくよ。君の肌はあたしなんかよりよっぽど繊細にできているからね。今日は……これを使おうかな」


 / / S E:かちゃかちゃ、と、瓶をひとつ取り上げる音

 / / S E:ちゃちゃちゃちゃ、と、瓶を振って液体を混ぜる音

 / / S E:とぽん、とぽん、と、耳元で、スポンジに液体が落とされる音


「目を瞑って。たっぷり、染み込ませてゆくよ」


 / / S E:ぽんぽん、ぴちゃぴちゃ、とスポンジがはたかれる音、額から右の頬へ、そしてまた額を通って右へ

 / / S E:同じく首筋(耳の下の方)で、右、左


「どうだい。すうっとして、気持ちいいだろう。じゃあこのまま、唇のケアもしていこうねえ。クリームを……小指にとって、塗っていくからね」


 / / S E:ぺとり、とクリームをとる音、ぺちゃり、と唇に塗りこむ音


「……さ、これでいい。じゃあ、部屋に戻ろうか。おなかが空いただろう。今日は、君の好きな……」


「……ん、どうしたの。ふらついて。まだ少し、のぼせて……おっと、転びかけてしまった。どれ、もういちど顔を見せてごらん……」


「……ふうん。これは、よくないねえ。こびりついた昼間の記憶が、誰かが撒いた毒が、君の頭のなかで悪さをしてる。そうか、だから今日は人間の心が抜けきらなかったんだね。じゃあ、今夜は久しぶりに……」


 / / ヒスイ、ぐっと耳元に寄って囁く。


「君の、脳。触っていくね」










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