第3話 冬宵月星


 / / S E:……きいい、ぱたん、と、金属の扉が閉まる音


「……ああ、目が覚めたね」


 / /ヒスイ、頬に手を当てる。

 / / S E:右の耳元、頬にさわさわと触れるような音


「どう、気分は。ずいぶんよくなったろう。眠っているあいだに、君の身体のなかは隅々まで綺麗にしておいた。たあくさん、錆、たまってたよ。よっぽど昼間、大変な目に遭ったんだねえ」


「おや、どうしたの、そんなにじぃっとあたしを見上げて。怒っているのかい」


「……ん。ああ、そうじゃない。なにか見え方がおかしいんだね。眩しそうに片眼をすがめて、ぱちぱちとしている。どれ、ようくみせてごらん……」


 / / S E:あなたの髪をさらりと掻きあげる音

 / / ヒスイの吐息が左の耳のすぐ前で聴こえる。そのままで囁くように声を出す。


「……ああ、ノイズが乗っているねえ。外の世界を、ひとの汚れた心を、目に入れ続けたからだ。君の瞳はとっても繊細なものだから、ほんの少しの悪意でも映せば、もう傷ついてしまう」


「でも、それこそが君を外に出している目的。ひとの心を、知るために。君と、あたしがねえ。可哀想だけれど……ふふ、許しておくれ。その代わり、しっかり……」


 / /ヒスイ、声をいっそう潜めて、少し低い声色で。


「……愛してあげるから」


「じゃあ、目を大きく開いて。そう。あたしの指がゆっくり近づくよ。怖がらないで。大丈夫、痛くないから。そうら……」


 / / S E:左側で、きゅっ、きゅっ、という、何かの部品をきしませながら回す音

 / / S E:かちゃり、という音


「……ほら、とれた。君の、硝子の眼球。片眼だけど、見てごらん。きらきら、輝いているだろう。冬のいちばん寒い日の夜明け前、月と星の最後の光を集めて閉じ込めてあるんだ。でも、それがすこうし、滲んでる。これが、ノイズ」


 / / S E:戸棚を探る音、瓶がぶつかり合う音

 / / S E:瓶のなかの液体を振る音


「瞳のノイズはね、特別な洗浄液に浸して落とすんだ。ちがうよ、これは人形たちの涙じゃない。君の瞳を作った冬の、初雪。さあ、入れてみるよ……」


 / / S E:ぽちゃり、と、液体に落ちる音

 / / S E:しゅわしゅわしゅわ……という、炭酸のような音


「……ほうら、みるみる綺麗になってゆく。取り出して、拭いていくよ」


 / / S E:きゅ、きゅ、と、硝子を磨くような音


「うん、これでいい。じゃあ、こっちを見て。目を、開いて。そうだ、その前に少し、目の内側も綺麗にしておこうか。風を当てるからね、少ししゅっとするかもしれないよ」


 / / S E:左の耳元に、しゅうと空気が吹き付けられる音


「そうして、羽根でふんわりと……」


 / / S E:左側、羽根のようなものでふわふわ、ごわごわと撫でられる音


「あはは。目をぱちぱちとさせているね。くすぐったいのかい。もうすぐ終わるから、我慢して。さ、眼球を入れていくよ……」


 / /ヒスイの声が右の耳元に近づく、吐息。囁き声。


「動かないで。あたしの目を見ていて」


 / / S E:左側、ぎゅう、ぽこん、と、部品がはまる音


「……どう、すっきりしたでしょ。じゃあ、今度はもう片方の目。それが終わったら、お風呂に入ろうねえ。あたしといっしょに」



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