中央都市編

15話 王政四族会

一夜明け、改めてギルドに報告を要請されるブラッドとイル。


2人は、ギルド長室に。事の顛末を報告した。

イルの実力を見抜いていたヘーベルであったが、勇者にイルをぶつけたのはやはり賭けだったようだ。疲れが今だに顔に出ている。



ヘーベルは2人に提案をする。

「頼む、色々無茶なのは承知だが、何とかギルドに入ってくれないか?」





だが、イルは断る。

なぜなら、ブラッドの問題があるからだ。人間である彼を魔族側のギルドが登用、しかも人間領土の最前線ギルドだ。


「い、一応、特別措置として!」

と、ヘーベルも待遇良くと提案するが、実際厳しいだろう。

モザンとラックとも、道中そのあたりの話をしていたがやはりブラッドの登録に周りの多くの魔族冒険者が難色を示すだろう、と。


かと言って、2人が人間側のギルドに流れでもしたら洒落にならないのも事実。

ヘーベルの胃に穴が空きそうな展開。

「…そ、そこを何とか…、せめて彼女だけでも…!」


「私は、ブラッドのそばにいます。この答えは変えるつもりはありません。」


「…イル。」






ガチャリ、とドアが開く。

「失礼、ギルド長はいるか?」


そこに巨体な魔族の男性が入ってくる。黒いコートに身を包み、胸には勲章がひかる。身なりからして、貴族出身の軍人みたいだ。

ヘーベルが勢いよく起立し、静かに頭を垂れる。




彼は、この最前線一帯を取り仕切る魔族側の最高幹部の一角。「王政四族会」と呼ばれる、国の中枢を担う貴族の大幹部。

敬意と畏怖の念をこめ、国民から『四天王』と呼ばれる者。


「お帰りなさいませ、アヴァロン・V(ヴィーハウアイザー)・ロック様」


(…なんか、長い名前だなぁ)

高貴そう?だとは何となく感じる…

だが、あまりそういった事に疎いブラッドとイルは、誰?となっている。


「おまっ、おまえ達!…王政四族会だ!

あーっと…つまりその…

『四天王』のお一人だよっ‼︎」

焦るギルド長は、2人に耳打ちする。



四天王…!

もちろん2人にも勇者同様、耳に入っている存在だ。勇者に匹敵する実力をもつ魔族。まさか、勇者と戦った翌日に四天王に会うとは…。


「ヘーベル、此度の件よくぞ収めてくれた、感謝する。」


「へっ⁉︎あ、その…いえ、ギルドの長として当然の仕事をしたまでです!」


「…やはり、先代の目に狂いは無かったようだ。」



その四天王が、ギルド長にまずは感謝と労いをする。階級があるのなら、おそらく何段階も格上であろう。だが、部下に対して偉ぶろうとはしない。

これが、正しい貴族の姿勢なのだろう。


「会合のためとは言え、私が中央に出向いたスキに攻め入られた…。要所であるこの地で、あるまじき失態。

…民達に、謝罪のしようもない。」


「そ、そのようなっ!閣下の責任ではありません‼︎」


もちろん、非があるかと言うとそうでは無いが、責任者として、民を危険に晒す結果となってしまった。まずそこに謝罪をするのは、真に威厳ある人格者だと、分からないながらも2人は感じた。



「…さて、ヘーベル。このお二方が、例の?」

「はい。」

2人に向き直る四天王。


「挨拶が遅れまして、大変申し訳ない。

私の名は、アヴァロン・ヴィーハウアイザー・ロック

この地を統括する者でございます。

どうぞ、ヴィーとお呼びください。


…この度は我が失態で街の、ひいては王国全土にも広がりかねない火種を消していただいた。心からの感謝を。」


四天王が、頭を下げる。

慌てて、ヘーベルも続いた。


「頭を上げてくれ、ヴィーのおっさん。別にオレ達、ギルドの冒険者でもないしな!」


「…なるほど。だが、謝礼くらいはさせてもらおう。お陰で、何万という民の命が助かったのだからな。」

晴れやかな顔でこちらを見るヴィーには、四天王の職務からでなく、純粋な気持ちが込められていた。


「別にいいよ、ヘーベルにもう貰ったしな!」


「…ほぅ、人間にしては我々に友好的であるな。お二方、出来れば名を聞かせてくれ。」


「ブラッドだ。」

「私はイル。」


「では、改めて礼を申し上げる。人間であれ魔族であれ、街を救っていただいた者を無下にはいたしません。謝礼が要らぬと言うのであれば、せめて我が街を堪能して下さい。」


「そのつもりだ!この街はすげぇ良い街だしな!魔族の…マギアの街はよ!」


「っ、随分と我々の事をご理解していただいているようだ。我が街にも人間はいるが、まだあまり数も相互の理解も進んではいないというのに。アナタは人間の…リングの中でも、信頼に足る人物のようだ!」

ニッと笑顔を見せるヴィーに、ヘーベルも驚く。


四天王と言えば、かつての戦争で多くの人間を屠って来た張本人。憎しみも憤りも数多く背負っているハズ。




「…新しい時代が来たのかもしれん。」


和かな顔のヴィーには、この先に微かな光が見えた気がした。


誰も見たことのない、新しい道が…

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