第19話 3―5

 僕とリオは丘の上の不思議な光景をぼんやりと眺めていた。

 一定のリズムが眠気を誘う。


「ルーシーちゃん、楽しそうニャ」

「うん。ジャックも」


 Bone踊りを目にしたルーシーがソワソワと落ち着きがなくなり、ついには「ルーシーも!ルーシーも!」と騒ぎだしたのだ。

 ジャックが言うには、アンデッドなら飛び入り参加しても「ただちに問題はない」とのこと。

 その役人のような表現に少々不安を感じながらも、僕は二人に飛び入り参加の許可を出した。

 このままルーシーが騒ぎ続ける方がマズいと思ったからだ。

 許可を出すや否や、ルーシーはすっ飛んでいった。

 一瞬ゴーストたちの円の前で躊躇したが、やがて誘われるように円に加わった。

 ジャックは列の手前でペコリと頭を下げると一人分のスペースが空き、そこに入った。 

 なんか慣れてるな、ジャックの奴。


「ふぁぁ……踊りが終わったらスカウトするニャ?」

「うん……でもいつまで続くのかな」


 あくびを噛み殺しながら月を見上げる。

 おそらくもう、Bone踊りを眺め始めてから三時間は経ってる。

 同じように月を見上げたリオが言う。


「朝までかニャあ」

「だろうね」


 僕たちは地面にごろんと横になり、目の前の景色をうつらうつら眺めていた。



 ――ヨーオッ、パン!

 今までと違う勢いのある音に、僕は目を覚ました。

 東の山がうっすら明るくなっている。

 リオは丸くなって寝ていた。

 朝か……朝!? ヤバい!!

 飛び起きると、僕は大声で叫んだ。


「ゴーストの皆さん! こちら、レイロアの大迷宮で商店を営む黒猫堂です! 黒猫堂では、店番ができるゴーストさんを探しています! 希望者は今日の夜、馬車までお越しください! 条件等は応相談です!」


 数多のスケルトン、ゴーストたちが僕に注目している。

 伝わったのだろうか。

 するとゴーストの輪から一体がこちらへふよふよとやって来る。

 ルーシーだ。


「わかったって~」

「ほんと? よかった」

「つかれた~」


 そう言うとルーシーは僕の胸の十字架の中へと消えていった。

 ゴーストたちも一体、また一体とそれぞれの方向へと去っていく。

 あとはスケルトンか。


「スケルトンの皆さんにもポーターの仕事をお願いしたいと思ってます! 希望者は同じくこの後、馬車まで!」



 寝起きのリオとともに馬車へ向かう。

 馬車まで戻る道中、すでに後ろから大量のスケルトンがついてくる。

 傍から見ると恐ろしい光景だろう。


「五十体はいるニャ……どうやって選別するニャ?」

「タブン大丈夫デス」


 ジャック曰く、五十体のスケルトンうちの多くは、単純に前を歩くスケルトンに付いてきているだけとのこと。

 ジャックの言は正しかったようで、馬車までやって来ると、すでに三十体ほどに減っていた。

 そこからさらにジャックに、ただ付いてきただけのスケルトンを弾いてもらう。

 残ったのはたったの四体だった。



 ◇



「これより集団面接を始めます。席にお着き下さい」


 席は手頃な石をイス代わりに四つ等間隔に置いたもの。

 僕たちはその対面に同じように三つ石を置き座る。


「まず自己紹介を。僕は黒猫堂オーナーのノエルです」


 神妙な顔で軽く頭を下げる。


「続いてこちらがオーナー兼店主のリオ」


 リオも同じように頭を下げる。


「そしてこちらが荷役ポーター係係長ジャックです」


 ジャックは横柄な態度で手を上げて応える。

 言い終えて、スケルトン四体を見渡す。

 一番左はきちんと座ったスケルトン。

 背筋がピンと伸びていて好印象だ。

 二番目は自分の席をガン見して、その周りをひたすらグルグル歩き回っている。

 自我があるのか非常に怪しい。

 三番目は立派な体格、もとい骨格のスケルトン。

 偉そうに脚を広げ、腕組みしている。

 四番目はずっとゲラゲラ笑っている。

 怨霊系のスケルトン、か……?


 僕は咳払いし、スケルトンたちに言った。


「えー、左の方から順番に話を聞いていきます。では一番左の方、お名前と生前のご職業を」


 姿勢のいいスケルトンが立ち上がる。


「私ハじぇろーむト申シマス。生前ハ執事ヲヤッテオリマシタ」


 執事! これは期待できそうだ。


「肉体労働になるけど平気かニャ?」

「問題アリマセン。生前ハ護衛モ兼ネテオリマシタ故、鍛エテオリマス」

「なるほどニャ」

「待遇ノ方デ希望ハアリマスカ?」

「私ハ綺麗ナ服ヲ所望致シマス」

「服ですか?」

「執事トシテ、コノぼろぼろノ格好ガ我慢ナラナイノデス。ソレガ志望理由デモアリマス」

「なるほど……」


 ジェロームの服は、元は仕立てのいいスーツだったのだろうが、もはや見る影もなくズタボロだ。


「では二人目の……あれ? どこ行った?」

「バッタ追っかけてどっか行ったニャ」

「そ、そっか。では三番目の方」

「オウ!」


 三番は大きな返事と共に立ち上がると「それ呪われてるよね!?」と突っ込みたくなるような形状の大斧を肩に担いだ。


「俺ッチハどみにくダ! 山賊ヲシテイタ!」

「ウワ、山賊デスカ……」

「オット、勘違イスルナヨ? 襲ウノハ金持チダケダ! ソレヲ貧民ドモニばらマクノヨ! 金持チハ皆殺シダガナ! ギャハハハ!」


 う~ん、義賊と言えるのか?

 微妙だな。

 骨格は良いんだよな、骨格は。


「えーと、四番目の方は……まだ笑ってますね」

「もうここまででいいニャ」

「そうだね……」


 まだゲラゲラ笑っている四番に諦めの視線を向けていると、ドミニクが怒鳴った。


「兄貴ヲ無視スンジャネェ!」

「兄貴?」

「兄貴分って奴かニャ」

「イイヤ、正真正銘血ヲ分ケタ兄弟ダ!」

「そうなんですか?」


 四番に問いかけてみる。


「ヒヒヒヒヒヒ! オ、オ、俺タチハァァァ兄弟ダアッ」

「ふむふむ、会話は通じるのか」

「まさか、こいつも雇う気かニャ!?」

「まあまあ。話だけは聞こうよ」

「ソウダァッ話ヲ聞ケェェェ! 聞ケェェヒャヒャ!」

「わっ、わかったニャ。名前は何ていうニャ?」

「オ、オ、オ、俺ハァァァ! 誰ダァァァァァ!」

「兄貴ハまりうすダ」

「ソレダァァァ」

「マリウスさんだね。前世の職業は?」

「グオォォォ、ワカラネェェェ」

「兄貴モ山賊ダ」

「ソウダッタァァァッ」

「もう弟さんに聞いた方が早いニャ」

「そうだけど、これは面接だから本人に聞かなきゃ」

「はぁ。じゃあ待遇について希望はあるかニャ?」

「アメダァッ」

「雨?」


 空を見るが雨が降る気配はない。


「ソウジャナクテ飴ダ。兄貴ハ飴ニ目ガナイ」

「ソウッ飴ダァッ! 飴飴飴飴…………」


 会話は成立するんだよな。

 記憶が怪しいだけで。

 飴で働いてくれるなら人件費は格安。

 いいかもしれない。


「ノエル、採る気ニャ……」

「飴で働いてくれるんだよ? 赤字続きの黒猫堂にはうってつけだよ」

「うう、そうニャんだけど……」

「赤字は?」

「敵ニャ!」

「敵ハドコダァッ! 敵ハ皆殺シダァァァ!」


 頭を抱えるリオ。

 一方僕は、次第にマリウスがクセになってきていた。

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