第24話 王様の部屋

美咲の無邪気な質問が、鋭い氷の刃のように私の心臓に突き刺さる。

「どのおへやがいい?」その問いは、この石の城が私たちの墓標であり、部屋を選ぶことが、自らの死に場所を選ぶことだと、暗に告げていた。

私の額に、冷たい汗が滲む。

遠巻きに見守る乗客たちの息を飲む音が聞こえるようだった。

私の答え一つで、この場の運命が決まる。


(考えろ…慎重に、言葉を選べ…)


「そうだな…」私は、かろうじて笑顔を作り、美咲の目を見つめ返した。

「美咲ちゃんは、王様なんでしょ? だから、一番高いところは、王様の美咲ちゃんのお部屋がいいんじゃないかな」


これは賭けだった。

彼女の自尊心を満たし、同時に私自身の選択を回避する。

私の言葉に、美咲はきょとんとした顔で数秒間、私を見つめた。

そして、次の瞬間、ぱあっと顔を輝かせた。


「そっか! わたし、おうさまだもんね! わかった、いちばんたかいところは、わたしのおへやにする!」


彼女は満足そうに頷くと、再び石積みの作業に戻った。

私は、全身から力が抜けていくのを感じ、その場に崩れ落ちそうになるのを必死で堪えた。

どうやら、今回も切り抜けられたらしい。


しかし、安堵したのも束の間だった。

一人の若い男が、この状況に耐えきれなくなったように叫び声を上げた。


「もうたくさんだ! こんな子供の遊びに付き合ってられるか! 俺はここから出るぞ!」


男はそう叫ぶと、機体の方へ走り出した。

加藤が制止しようとしたが、間に合わない。

男は、まるで何かに取り憑かれたように、ただひたすらに走った。


その様子を、美咲は石を積む手を止め、静かに見ていた。

そして、ぽつりと呟いた。


「…だめだよ。まだ、おにごっこは、おわってないのに」


その言葉と同時に、男の足がもつれ、派手に転倒した。

しかし、様子がおかしい。

男は起き上がろうともがいているが、まるで見えない何かに足首を掴まれているかのように、一ミリも前に進めないでいた。


「うわああああ! 離せ! なんだこれは! 離してくれ!」


男の悲鳴が、賽の河原にこだまする。

私たちは、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

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