第2話 転生の条件



「……は? て、転生?」



「そうです、転生です。生まれ変わってニューゲームです」



「にゅーげーむ!」



 妹と一緒に事故って死んで天国とやらに来たオレが、自称女神の女に言われた一言。

それは地獄に落ちろでも成仏しろでもなく『異世界に転生しなさい』だった。



「美柑、オレたち異世界に転生するんだってよ」



「いせさきにてんせー? ちょーあつそー!」



「伊勢崎じゃなくて異世界だよ」



 嫌だよ日本一熱い街(死亡当時)に転生するの。



「とはいえ女神さんよ、転生するにしてもなんで同じ世界じゃなくて異世界なんだ?」



「同じ世界だと、また人間として生まれてくる可能性がかなり低いんですよ。生まれ変わりガチャの結果によってはゴキブリとか道端の草とかになります」



「みかん、くさすき!」



「犬のおしっことかかけられるぞ」



 原理は不明だが、異世界に転生する場合はちゃんと人として生まれ変わらせてくれるらしい。

まあこの世界で運良くまた人になれたとしても、生まれた国によっては死んだ方がマシみたいな厳しい生活になるだろうしな……それは異世界でも同じかもしれんが。



「分かった、本当に異世界転生とやらが出来るならそうしてくれ。ただし、ひとつお願いがある」



「聞きましょう」



「……オレと美柑を、転生先でも兄妹として生まれ変わらせてくれないか?」



「うわ、めっちゃシスコンですね」



「うるせえ」



「みかん、シスコーンすき!」



「それは今日の朝食ったやつな」



 そういや牛乳かけて食ったわ……ああ、死んだはずなのになんか腹減ってきた。



「転生先でも二人一緒に、ですか……すみませんが、それは難しいと思います」



「やっぱダメか」



「そうですねえ……本当のご兄妹であれば、その願いも叶えられたかもしれませんが」



「……そうか」



「血のつながっていない他人同士ですと、やはり転生先で一緒になるのは難しいです」



 女神の言う通り、オレと美柑に血のつながりは無い。

オレたちは同じ施設出身の孤児で、そこで『彪牙』と『美柑』という名をもらって、オレたちを家族に迎えてくれたおじさんとおばさんに『夏山』という姓をもらった。

だから血のつながりは無くとも、オレと美柑は兄妹だ。



「ただし、ある条件を呑んでいただければお二人の記憶を引き継いだまま転生させることが出来ます」



「記憶の引継ぎか……」



 女神の話によると、生まれ変わった時点で今の記憶を引き継ぐと前世と現世で魂の乖離が起きて廃人になってしまう可能性があるので、引き継いだ記憶は脳の片隅に封印しておき、今と同じ……つまりオレたちが死んだ時点の年齢まで成長したら記憶が蘇るように調整するらしい。



「つまり、オレは異世界に転生したら15才になるまで今の記憶を忘れて普通に生活する……それが条件ってことか」



「そういうことです。記憶を引き継いだばかりの頃は、それまで生活していた異世界での記憶と意識も合わさるので少し混乱するかもしれませんが……」



 記憶を引き継いだからといって、見た目が別人になった美柑を探すのは容易では無いだろう。

でも、全てを忘れて異世界でお互い知らない人として暮らすよりは希望が残っている。



「美柑、生まれ変わってもにいちゃんと会いたいか?」



「あいたい! いせえびでもひゅーがにーちゃといっしょがいい!」



「イセエビには生まれ変わらねえよ。異世界な、異世界」



 美柑からもOKが出たところで、オレたちは記憶を引き継いで異世界に転生することを女神に告げる。

記憶が戻った時の為に、美柑と相談して二人が再会するための合言葉も決めた。



「それでは早速お二人を異世界に転生させましょう。とはいえ、美柑さんが生まれ変わるのは彪牙さんよりだいぶ後になりますが」



「まあ、オレと美柑は年の差が干支一周分あるからな」



「かにざ!」



「それは干支じゃなくて美柑の誕生日の星座な」



 異世界にも干支とか星座ってあるのだろうか……などとどうでも良い事を考えていると、徐々に意識が遠のいていく。

次に目が覚めた時は、異世界にあるどこかの国の、どこかの家のゆりかごの中かな……まあ、15才になるまで今のオレには分からないが。



「あっ言い忘れてましたがこれからお二人に暮らしていただく世界では、転生者は生まれた時に〝ギフト〟という特殊能力をひとつ授かることになってまして。まあ転生者特典のようなものですね」



「えっなに? ギフト……?」



「おちゅーげん!」



「血のつながりが無くとも、お二人の『心のつながり』が強いのならば似た性質のギフトを授かれるかもしれませんよ」



「ちょっ! そういう、大事な話は……もっと、先に言え……」



 薄れてゆく意識の中で、オレは最後に『おちゅーげん! くだものゼリーたべたーい!』と言っている美柑の声を聞いた気がした……

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