EP5(3)
「また、物騒ね」
当たり前が当たり前じゃなくなる。悪い方に使うことが多いがいい方にも使う。今日の日本という国においても。
現状の日本という国はかなり治安が悪い。じわじわとその気配はしていた。ヴァルキリーという犯罪組織が暗躍していたのだから。しかし、表立って発砲騒ぎやら立て篭もりやら爆発騒ぎが頻発するようになったのはここ2年ぐらいのことだった。それも、ヴァルキリーの幹部が逮捕……いやほぼ全員死亡することによって組織の規模が縮小を重ね、崩壊していくことにより、少しずつ改善していた。もちろん、元構成員による立て直しを図ったものや、ただ単に恨みを晴らすため、被害者の反撃等々あるが警察もそこまで無能ではない。あちこちで起こる犯罪が頭を悩ませるが、目に見えてヴァルキリー関連犯罪の件数は減っていた。そこにやってきた警察官人質立てこもり事件。一年半前の事件を彷彿とさせる嫌な事件だった。
〈犯人達は、唯川グループ会長、唯川眩夜の孫であり、警視庁次長唯川芺威の息子である唯川瞠警部36歳と聖園食品代表取締役社長聖園創の孫である聖園梛警部補26歳を人質に取っています。2人は警視庁公安部公安総務課第6公安捜査第11係所属とのことです。
犯人は当初、ヴァルキリー上級幹部全員の解放を要求していましたが、先ほど警察庁が表明した1名を除き、ボスを含めた上級幹部全員の死亡が確認されていること、その1名は司法取引済みであることを知り、ヴァルキリーの構成員全員の解放を要求しています。犯人達は期日を明後日の同時刻、16時34分としています〉
大型ビジョンを緊急ニュースで埋め尽くされる。都会の喧騒はより激しくなり、混乱に包まれる。
不安、心配、恐怖が東京という街を、日本という国を包み込む。これが成功すれば、また、よくなってきていた治安が悪化する。巻き込まれて死亡する一般人が増える。警察官の殉職者は増える。皆、そのような気持ちでスマホの画面やら大型ビジョン、テレビ、目の前の画面を見つめていた。
警視庁の大会議室。皆そこに集まっていた。
結論は一つしかない。構成員の解放など馬鹿なことは出来ない。しかし、下手な手を打って警察官が殺されたとあれば警察という権威がまた落ちてしまう。ここまで立て直してきていたのに、だ。一年半前のようなことは起こさせない、そう誓ったばかりなのに。会議室は重く澱んだ空気が流れていた。
ひとつだけ、良いことといえば盗聴器が気づかれていないことによって向こうの状況が音声だけでもわかるということだった。犯人の人数も、名前も把握した。データベースを参照して特定も出来た。後は、どうやって犯人らの確保と人質になった2人を保護するかだった。
父は自分のことを大事になど思っていない。その言葉が深く、深く芺威の心を突き刺した。全てを後悔した。今までの人生全てを。
どちらにせよ血祭りになる未来しか見えない。メンツは全員ヤバい奴なのだから。
そもそも頭が良く、自己肯定感が低めなのか最適解を自分の負傷とかを考えずに突き進む瞠に生まれる時代が違えば英雄になれたであろう敵と認識した人物に自動的にエイムが合うとかいう能力持ちで情緒の上下が激しい梛。こっちで色々考えたとてその通りに動いてくれるとは思えない。それにこんなことを起こす犯人達。まぁ2人にビビってこんなことを辞めてくれたら良いのだけれど、そうは行かない。突入するにしろ人数が多すぎる。頭を悩ませる皆であった。
トツ、トツ、トツ。リズム良く何かを打ち付ける音が聞こえてくる。朝を迎えてすぐの事だった。
任せる。
おそらく少ない時間を見計らって送ったであろうモールス信号。変換してみるとおそらくこうなった。
この情報はすぐさま本部へと送られていった。
警察という組織を信用してくれたのはありがたいが正直言って最適解の道筋が見えていなかった。しかし、信用してくれたのだから、こちらとしても信用するしかない。解放を偽装するための会議を特殊部隊とともに立て始めた。
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