EP2(2)
彼女の取引相手の特定は直ぐに終わった。そういう裏取引というものに慣れていなく、特段詳しいというわけでない、一般人だったからだった。
「やはり、ですか」
貰ってきた資料に書かれたその名前は想像した通りだった。
若葉澪。第一発見者のホテリエの男だった。
「それで?これからそのまま話を聞きに行くのですか?」
2人がいるのは事件が起きたスイートルーム。現場捜査はし尽くされ、特殊清掃が入る寸前の事だった。捜査状況や成果は逐一報告しているからもうすぐ捜査一課が令状を持って犯人を捕まえに来るだろう。
「ああ、はい.......」
梛はどこか上の空だった。
「結局、負のスパイラルって事ですかね。そこまでして最悪死刑が下る犯罪などクズに復讐したいからと犯さなくていいのに。全員、まだ若いじゃないですか」
瞠は何も言えなかった。責められているようで胸がズキズキと痛む。いや、責められているのは事実か。彼がどこまであの真実を知っていようと罪を知っていて告発しないのは同様に罪なのだから。
「帰りましょうか。唯川さん」
梛の顔は一転して爽やかだった。しかし瞠は恐ろしかった。
「え、ええ」
「飲みに行きませんか?」
「すみませんね。少々用事が」
「わかりました。じゃあまた今度。警視庁までは運転お願いしますね。唯川さん」
「わかりました」
「瞠、奴はどうだ?」
警察庁、次長室に夕陽が差し込む。
「流石に“あの”唯川だとは気づいていましたよ。まだ両親のことについて聞けるような間柄ではありませんのでこれ以上は」
「そうか。まぁいい。俺はしばらくすれば長官だ。奴は準キャリアで普通に過ごしていればキャリアを傷つける事などない。バレなければ、なぁ」
「ええ」
瞠はずっと苦しそうな表情をしていた。
「これからも監視を頼むぞ」
「はい。お父様」
父である
父は唯川グループの会社に入ることは選ばなかった。瞠と同じ帝都大学の法学部に入学した後は警察庁に入った。
瞠も父と同じ道を進むはずだった。父のことは心から尊敬出来なかったが、警察官という職業は憧れだったから。
しかし、瞠は国家公務員試験の直前で受けるのをやめて、警視庁に入った。その理由は1番仲の良い友人だった春樹にすら話さなかった。
荷物をまとめて外に出た頃にはもう外は真っ暗だった。
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