EP1(4)

 啓央大学に着いたが、かなり騒がしかった。テレビカメラ、群がる記者たち、制する警備員。

 事前に連絡していたので、スムーズに応接室に通された。

「それで、警視庁の方がどうしてこちらに?ここは神奈川ですが......」

 対応でバタバタしていたらしい教授は詳しくは聞いていなかったらしい。

「先ほどサクラグラントーキョーで雪嶋道信という人物が殺害されまして。死因は滅多刺しかと思われたんですがアーモンド臭、つまりは青酸カリによる毒殺と見られてます。そこで最近紛失事件が起こったのと関係があるのではと我々は疑ったわけです」

「あぁ。そうなのですね。とりあえず現場にご案内します。着いてきてください」

 教授の案内で盗まれた青酸カリも置いていた薬品庫に案内された。

 電子キーにより入退出者が分かるようになっている。

「部屋の中には監視カメラは?」

「一応ありますが、死角はかなりありますので......神奈川県警の方にも見てもらいましたがわからないと」

「では疑いのある人物全員を一人一人話を聞くしかありませんね」

「SNSや闇サイトでの取引がないか探るのも手でしょう。急にご連絡したのに現場を見せていただき本当に今日はありがとうございます」


 翌日、登庁の途中だった。9月も終わりが近づき夏の暑さが少しマシになった朝8時。信号待ちでふと横のビルを見た次の瞬間、何かが落ちてくる。衝撃音、響く叫び声、あたりに散らばる肉片と血。ぐちゃぐちゃになってしまった人。飛び降りだった。自分の前でも車から降りてくる人も数人いた。僕も警察として対応すべきだと判断して急いで駆け寄る。

「警察です。皆さん、離れて」

 とにかく遺体から群衆を離れさす。そうこうしているうちに制服警官らがやって来る。

「あの、貴方は......?」

 警察手帳を見せる。

「あなたと同じ警察です。つい先ほどこの女性がこのビルから落ちてきました。幸いにも他に怪我人は無し。僕はこれから出勤ですので、後の対応は宜しくお願いします」

「はい、お気をつけて!」

「はぁ......」

 朝から散々としか言いようがない。


「それは本当に散々ですね。ああ、これですね」

 さっき港区で起きた飛び降り自殺と見られる事件。

「飛び降りたのは啓央大学院生......!?」

「しかも理工学研究科。薬品庫に入れますね」


 署に行って話を聞くことにした。もしこの飛び降りた人物と青酸カリを盗んだ人物が同一人物ならば何故、自分から飛び降りた?バレることを恐れての恐怖か?ならば何故盗んだ?何のために盗んだ?殺すためか?金稼ぎか?そこまでして私立最高峰の啓央というブランドを捨てれるか?とにかく彼女のことを詳しく聞かない事には背景を考えたとて意味が無い。


「唯川さんは帝都大法卒というブランドを何故捨てれたんですか?」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る