第2章 記憶の中のカード

【Scene 1:直人の悪夢】

健吾が倒れ込んでから、館の空気は一変した。

美咲が必死に健吾の手を握り、涼はドアを叩き続けるが、外には一切出られなかった。


直人は一人、壁に刺さったトランプ「♠53」を見つめていた。

そのカードはじっとこちらを見返しているように感じられ、手に取ることができなかった。


夜が深まるにつれて、直人はふとした瞬間に意識を失い、恐ろしい悪夢を見るようになった。


【Scene 2:過去の断片】

悪夢の中で、彼は幼い頃の記憶に引き戻される。


暗い部屋。母親の泣き声。

そして、床に散らばったトランプのカードの山。


「やめて……お願い……」


小さな直人が必死に叫ぶ。

しかし、母親の姿は次第に歪み、カードの絵柄の男へと変わっていった。


その男はまるで「♠53」のカードの絵と同じ無表情の顔をしていた。


【Scene 3:美咲の霊視】

「直人……」


美咲の声で目が覚めた。彼女は涙を浮かべながらも、しっかりとした口調で言った。


「この館の呪いは、“記憶”を奪い、代わりに“カードの役割”を植え付けるの。あなたの過去とこのカードが繋がっているのよ」


彼女は壁に貼られたカードたちを見て言った。


「私には見える……あなたが今、“ジョーカー”として認識されつつあることが」


「ジョーカー?」


直人が聞き返す。


「そう、トランプの中でも特別な存在。ゲームのルールを破り、時に勝敗を決めるカード……だが、同時に“呪いの鍵”でもある」


【Scene 4:涼の調査】

涼は館の書斎にあった古い日記を読み始めていた。


「これ、持ち主の記録らしい……"トランプの呪い"は、一族に代々受け継がれているものだったみたいだ」


そこには、かつてこの館で起きた悲劇の記録と、トランプのデッキが一族の魂を封じるための道具だったことが記されていた。


「つまり、この呪いは“デッキの完成”を阻止することが唯一の生き残る方法だ……」


【Scene 5:次の犠牲者】

その時、館の奥からかすかな声が聞こえた。


「助けて……助けてくれ……」


声の主は健吾だった。しかし彼の体はすでにトランプのカードに変わり始めていた。

彼の皮膚はカードの紙質に変わり、まるで実体が消えていくかのように見えた。


「時間がない」


直人は覚悟を決め、カード「♠53」を手に取った。


「これを破れば、すべて終わるのか?」


その時、カードがじっと彼を見つめ返し、不気味な笑みが浮かび上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る