長編ホラー小説《トランプ館》

ジュラシックゴジラ

第1章 忌まわしき箱

【Scene 1:再会】

「直人!こっちこっち!」


八月の暑さがまだ残る夕暮れ、駅の改札を出ると、数年ぶりに再会した友人たちが手を振っていた。


大学時代の仲間、美咲・健吾・涼。

それぞれ社会人となり、各地に散らばっていたが、誰からともなく「久しぶりにどこかで集まろう」という話が持ち上がり、今回の小旅行が決まった。


行き先は——郊外の山奥にある別荘。


「トランプ館、覚えてる?」


ふと、涼が言った。


「あの話……冗談だと思ってたけど、最近また噂になってるらしいんだ」


「また流行ってんの? あの"53枚目のカード"の話?」

健吾が苦笑した。


「違うよ」

涼が低い声で続けた。


「今は54枚目の話になってる」


【Scene 2:山奥の館】

車で2時間、舗装が荒れた林道を抜けた先に、朽ちかけた洋館が現れた。


トランプ館。正式な名称はない。持ち主も不明。

ただ噂では、戦前から存在していて、何度も所有者が変わっては、行方不明者が出るたびに放棄されてきたという。


玄関のドアは、重々しい音を立てて開いた。


館の中は意外にも埃が少なく、まるで“誰かが手入れしていた”ような気配さえあった。


そして——


「……あった」


暖炉の上に、かつてと同じように置かれた、古びたトランプの箱。


だが、何かが違う。

前は新品同様だったその箱は、今はまるで人の皮膚のような質感に変わっていた。


美咲が一歩引き、震えながらつぶやく。


「これ……“生きてる”……」


【Scene 3:開かれたデッキ】

夜。4人は酒を飲みながら、再びトランプを広げていた。


「都市伝説によると、0時に52枚をすべて並べると、“53番目”のカードが現れて、その人物に死が訪れるって話だったよな?」

涼がニヤリと笑う。


「でも今は違う。“53番目”はまだ"ゲームマスター"にすぎない。“54番目”が現れたとき、本当の“トランプの儀式”が始まるんだとよ」


直人は、ふと箱の中身を確かめた。


「……待って。52枚じゃない」


カードは、すでに53枚入っていた。


しかもその一番上にあるカード——そこには、直人の顔が描かれていた。


【Scene 4:死の前触れ】

ドン!


部屋全体が揺れた。外の風が突然止まり、窓の外には黒い霧が立ち込める。


「閉じ込められた……?」


健吾がドアを開けようとするが、ドアノブは動かない。まるで溶接されたかのように。


突然、カードが宙に舞い、壁や天井に突き刺さった。


その中の一枚——「♣健吾」——から、実際の血がにじみ出る。


「うわあああっ!!」


健吾が胸を押さえて崩れ落ちる。服の下からは、カードと同じ傷跡が浮かび上がっていた。


美咲が悲鳴を上げる。


「これ……呪いじゃない!この館全体が“デッキ”になってるのよ!」

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