序章 家族編
第一話 目覚めから
「ここは……どこだ」
目を覚ますと、僕は薄暗いどこかにいた
足元はゴツゴツとした岩が敷かれており、上からは水が垂れて来ている
うっすらとだが、壁や地面に草が絡みついているのが見える
多分、ここは洞窟の中だろう
どうして僕はそんなところにいる?
その疑問を解決するため、懸命に思い出そうとする
しかし、何も浮かび上がってこない
それどころか新たな疑問まで生まれる始末
「あれ、僕は……誰だ」
記憶が一切無いのだ
奇妙なほど何も見えてこない
ぼやけもせず、雲がかかるわけでもなく、まるで今生まれたかのように何も出てこない
「はは、多分疲れてるんだな」
とりあえず、ここに留まるわけにはいかない
一旦外に出よう
といってもどうやって出る?
ここまで来た道のりを覚えていないんじゃ帰りもできない
「進むしかないよな……」
少しだけ漏れている光を頼りに歩き出す
運が良い事に、一歩一歩進めるたびに光が強くなって来ているのがわかる
見えにくかった視界もだんだんと鮮明に見えてくる
いや、目が暗闇に慣れただけか
落胆するように肩を落とし、ため息をつく
しかしなんだろうか、この洞窟の美しさといったら…
絶えず落ち続ける水流、弱々しい光を受け宝石のように輝く水たまり、まるで磨かれたようになめらかな岩石
正直、歩くのも忘れてしまいそうなほど心を奪われていた
でもそれじゃあダメだ
ここに留まっていてはいつしか死んでしまう気がする
現に僕の腹は食料を求めて唸り続けているのだから
「よし!頑張ろう!!」
自分を鼓舞するように胸を強く叩く
その時、叩いた手と叩かれた胸に何かが刺さったような痛みを感じた
「痛っつ!!あれ、何これ」
痛みに驚き、胸辺りを触っていると明らか自分の体ではな独立した硬いものがあった
暗い中それを手に取り目を凝らしてそれが何なのかを確認する
「石?でもなんで」
よく見てみると、それはひし形をした宝石のようなものだった
どうやら首から下げられているらしい
何故こんなものを首から下げていたのか、懸命に思い出そうとしてみる
だが身につけていた物1つ見ても、やはり何も思い出せない
「う〜ん、なんなんだろ…まあいいか」
考えるとすればお守り、なのだろう
身につけておいて損は無いし、何より記憶の手がかりになるだろうから一応そのままにしておく
今は取り敢えず出口探しからだ
再び足を進める
さて、それからどれくらい経っただろうか
外の景色が見えないんじゃどれほど歩いたのか全くといって良いほど分からない
「はぁ……はぁ……」
ただ一つ分かるのは圧倒的疲労
いつ倒れてもおかしく無いくらい足に限界が来ている
「まじで…今どこだよ………はぁ…」
一向に変わらない景色にいい加減苛立ちすら覚える
せめて光、少しでもいいから光源がほしい
そうすればこの終わりの見えない歩みにも希望が見出せるというものだ
「せめて明かりさえあればなあ……」
心に溜まった不満が耐えきれずに口から漏れ出る
その時、まるで要望に応えるかのように暗闇の奥にチラッと光が見えた
薄かったが確かな光
出口に近づいたという事実を実感し、疲労が溜まった足を前に、前にと動かす
「や、やっと…やっとだ……!」
一瞬しか見えなかった光はだんだんと留まり始め、ゆらゆらと揺れている
左へ行ったり右へ行ったり
まるで生き物かのように揺らめく光に僕は違和感を覚えた
だがやっと掴めた希望
余計な事は考えないようにして足を進めていく
「………」
しかし足を進めるたびに違和感が確かなものへと変わっていく
違和感が確かになるたび、体が危険を訴えてくる
引き返せ!逃げろ!死にたいのか!
そう言うように体が震え、心臓の鼓動が早まっていく
「あ……これ…絶対やばいやつだ」
危険信号に耳を貸そうとした時、既に手遅れだった
光だと思っていたそれは確かに光であった、あったのだが問題は何処から発せられた光なのかだ
「グルルルルルル………」
目の前にいるのは人間より遥かに大きな生物
岩石のような鱗に獲物を簡単に潰せてしまいそうな顎、恐怖すら覚える鋭い眼光
外の光だと思っていたそれは、自然と発光する生物の鱗だった
勝手に騙され、のこのこと近づいて来た獲物に既に照準は定まっている
何か、少しでも動いてしまえば直ぐに襲いかかって来そうだ
いや、これは確実に襲いかかってくる
(いつ逃げる?逃げるってどこに?逃げきれたとしてそこからは?)
頭の中では生き延びる為の最善策を導き出そうと必死であるが、何も思い浮かばない
ただ静寂が流れ続け、気づけば冷や汗が額から流れ落ち始めている
どうする事も出来ないままただ立ち尽くすしかない状況
遂に冷や汗は顎から滴り落ちた
そして、それは合図となった
グゥヴァアアアアアアアアアア‼︎‼︎
「っ…!!!」
化け物の咆哮とほぼ同時に男は走り出した
先程までの疲労を完全に忘れて走り出した
幸い、化け物の鱗から発せられる光のおかげで足元も障害物もちゃんと見える
だけど見えてはダメなのだ
見えてしまうと言う事は化け物がすぐ後ろにいる証拠となるのだから…
「はぁ!はぁ!!っ,はあ!」
息も絶え絶えに、ひたすら走り続ける
自分の限界などとうに超えているが、走り続ける
しかし相手はサイズも力も人間とは桁違いなやつだ
距離は空くどころか段々と近づいていってしまう
グルルアアアッ!!
化け物は距離が縮まり始めるとその岩石のような前脚で攻撃を開始した
地面を抉り、壁を崩落させ、副産物の砂塵でさえも人間を傷つけるには十分だった
あれを喰らってしまえばひとたまりもない
そんな事はきっと誰でも分かるだろう
「うわっ!!!」
なんとか攻撃を避ける
体を丸めたり、飛び上がったり、余計な事は考えず、ただ避ける事、逃げる事だけに専念して回避し続ける
一撃でも貰えば全ての終わり
そんな事は分かりきっている
分かりきっているのだが、現実は非情だ
「ッ—……!!」
一瞬、足が悲鳴を上げた
疲労のせいだろうか
ほんの一瞬、ちょっと動きが鈍っただけ
「しまっ………————
だがその一瞬のせいで反応が遅れた
化け物の前脚は獲物の体を捉え、撃つ
「………え?」
ドガッ、という音と共にいつの間にか壁に叩きつけられていた
何が起きたのか全く分からない
分かる事といえば体が動かないという事だけ
いつの間に飛ばされた?なんで体が動かない?どうして壁にめり込んでいる?
状況を理解するのに数秒かかってしまう
その間に壁に叩きつけられていた体はズルリと壁をなぞり、地面に倒れ込む
うつ伏せのまま見えるのは様子を伺っている化け物の姿と赤い水たまりだけ
「血……?」
視界の恥から広がる血溜まりは自分の身に起きた事を痛感させる
まずい
足が、思うように動かない。体が、言うことを聞かない。
でも、動かなきゃ、死ぬ。
そんな事は分かっている
でもどうすることもできない
嫌だ、何も分からないまま死にたくない
こんな、こんな終わり方って……
なんとか感覚を取り戻した左腕でモヤがかかったような体を引きずり、化け物から逃れようとする
だが腕一本では逃げれる距離などたかが知れてる
その上、よく見てみれば目の前は行き止まりだ
どの道、ここで死ぬ運命だったのかと絶望感が体の力を奪っていく
「———:—-;¥;(—(&&(?&&)」
………なんだ
「:)&@:::—-::-!!!/;¥:/?”¥;&:.。」
誰だ……
声がする
途切れ、貼り付け、歪だが確かに声だと分かる
どこから
一体、どこから
「—&//:-がい-:;,:¥@)」
「これは…僕の、、、記憶?」
声が段々と鮮明になっていくと、脳裏に広々とした草原が思い浮かぶ
そこには誰もが見惚れるような白い長髪を携えている女性が立っていた
懐には何かを抱え、それをあやすように揺さぶっている
「お(¥@:がい(@“;/&」
顔はよく見えないが、僕の方を見ているのは確かだ
「お-/))が、い&@/)ない(¥&」
貴女は誰なんだ
何を言いたいんだ
女性に手を伸ばそうと、左手を前に伸ばす
赤く染まった手は彼女に届く事は無かったが、一つ、確かに触れる事ができた
それは首から下げていた石
ちょっと冷たくも感じる石
その石に触れた途端、石は微かに光り、世界に静寂が訪れ彼女の声だけが鮮明に聞こえた
「 お願い 死なないで 」
透き通るような、肌を通過するような声
その声を聞いた途端、抜けていた力が戻った気がした
「死ぃ、…んで……たま、るかぁあ!!」
動かなかった体を無理矢理動かし、先の無い道に向かって走り出す
正面は壁、どうにもならない
だがどうにかするしかない
ガアアアア!!!!
獲物の復活に化け物は再び前脚を振り上げる
「うおあああああ!!」
化け物の咆哮に負けないような声を出し、拳を振り上げ、岩石で出来た壁に向かってその拳を放とうとする
絶対に突破する事はできない
壁を殴ったからなんだ
頭では分かっているのだが、何故だろう…こうしなくちゃいけない気がする
いや、考えるのはやめよう
今はただ生き残る為に最善を!!
ドガン!!!
岩が砕かれる音と共に、気がつくと外に放り出されていた
空中、落下しながら辺りを確認する
左には風で揺れる木々の送迎
右にはそびえ立つ岩石の崖
上空は透き通った青空
下は青空を反射して光る湖
崖には穴が空いており、穴の中から先程の化け物が宙に舞った獲物を睨みつけている
睨みつけるだけで襲ってくる気配は感じない
「助かった…?」
落下しながらも、助かった事に安堵する
その意識は着水の泡と共に暗闇の彼方へと消えていった
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