記憶の彼方

ツボハル

プロローグ 始まり

王国は炎につつまれ、そこらじゅうに焼け焦げた人だったものが転がっている


人の形を保てているものも

人かすら分からないものも


平等に、そこにはある


そんな地獄に、二つの小さな息吹が聞こえる


一つは赤ん坊

一つは白衣を着た青年


青年の腹部には木片が突き刺さっており、口元から白衣まで、赤く染め上げられている


今にも途切れてしまいそうな程弱々しい鼓動を持ちながら


青年は大事そうに赤子を抱いていた


「……すまない」


一つ、口から溢すは謝罪の言葉


「なにも守れなくて……すまない」


血の上に涙が落ち、震える足取りで壁面にもたれかかる


「これからする事も、本来は…君が背負うべきじゃないんだ……でも、許してくれ…」


赤子は地獄にいながらも泣き声一つあげない


ただひたすらに、青年の後悔を、謝罪を、血を、涙を、一心に受け止め続けている


「無責任な事……だけど…ちゃんと…責任は取る……だから、どうか……どうか…」


青年は血に染まったその手で赤子を撫で

手を暗闇のかかった空にかざす


そして、虚ながらも希望を想い


“願う”


『彼を……止めて…くれ』



災禍の王国に、一筋の光が灯った

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