異世界魔法帖、侍魔法創世記~俺が作り出した侍魔法言語は最強で、もはや解析不可能に近い~

喰寝丸太

第1話 異世界転移

 俺は西向さいこう重一しげいち、25歳。

 神の手落ちとかで、異世界転移。

 ブラック企業の社員だったから、心機一転も悪くない。

 親も兄弟も恋人もいないからな。

 親戚には厄介者扱いされている。


 犯罪なんか、やらかしたことはないんだが、親戚には嫌われている。

 親が早く死んだから、疫病神扱いなんだろうな。

 父の友達が親戚の弁護士さんを紹介してくれて、財産の管理をやってくれた。

 おかげで、3流大学を卒業できたし、就職もできた。

 感謝しかない。

 弁護士さんは何かあった時に仕事の依頼料を申し訳程度に千円だけしか取らなかった。

 気掛かりがあるとすればそれだけだ。

 もう少し、恩を返したかった。


 親戚の奴らの何人かは財産を託してくれれば、一緒に暮らすなんて言いやがったんだよ。

 弁護士さんが間に入ってくれて、事なきを得た。

 毟り取る気が満々だったらしい。


 まあ、ブラック企業で弁護士にもタチの悪い奴がいると知ったが。

 俺の面倒をみてくれた人は違う。

 大人になってから、預金通帳の引き出し記録を見たが、家賃と光熱費と食事の宅配などの自動振り込みと、毎月の俺の小遣いしか下ろしてなかった。


 服なんか、お下がりをただで貰った。

 食事もたまに宅配を休止して、手作りの料理を弁護士さんの奥さんが差し入れてくれたこともたびたび。

 余裕がなかったからな。

 大学の学費も計算してくれて、ギリギリだと知って、節約できるところはしてくれたよ。

 ほんと、感謝しかない。


 異世界は不思議なスキルという物と、魔法があるらしいから。

 ここから、恩を返せるのなら、少し頑張ってみよう。


「冒険者ギルドってここで合ってる?」

「はい」


「登録するとただでスキルを鑑定してくれるんだよな」


 神様から聞いた。

 だから、ここに行けと言われたんだ。


「はい、登録とスキル鑑定ですね?」

「頼む」


「用紙に記入して下さい」


 用紙を適当に埋める。

 出身地は不明。

 みなしごだったと書いた。


 特技はなし。

 ブラック企業では、ただの便利屋だったからな。

 営業の手伝い、事務の手伝い、とにかく忙しい部署に回されるヘルプ要員だった。

 ブラック企業では、常に人が足りてない。

 徹夜しても納期が間に合わないなんてのはザラ。

 だから、ベルプ要員が必要。

 ヘルプが入っても大抵は間に合わない。


 そんなことはもう良いな。

 用紙を埋めた。


「スキル鑑定お願いします!」


 受付嬢が振り返って奥に呼び掛けると、仕事ができそうな中年男性が奥から現れた。


「【スキル鑑定】。シャール語と文字置換だな。外国の生まれか。シャールはこの国の名前だ。他の国から来て、ここの言葉を覚えると、まれに生える。文字置換は言葉遊びが頭の中でできるだけだ。たぬき言葉とかやったことがあるだろう。このスキルで『た』の文字を空白に置き換えれば、たぬき言葉の完成だ。他にどう使えるかなんてのは考えつかん。ゆっくり研究するんだな」

「ありがとよ」


 どうやら俺のスキルはゴミスキルらしい。

 こうなったら、残された手は魔法だな。


 Fランクと書かれた金属のカードを貰って、冒険者ギルドの依頼掲示板を見る。

 Fランクは最低ランクだから、子供の手伝いみたいなのしかない。

 とうぜん報酬も安い。


 1ヶ月分の生活費は神様から貰っている。

 だが、働かなければ減っていくだけだ。


 大学でも会社でもそうだが。

 大学なら、講義のノートと過去試験のデータなどがある。

 会社ならマニュアルだ。

 いきなり見せてくれは不味い。

 おごったりして、見せてもらうのが、良い手段。


 痛い出費だが、無駄にはならなかった。

 そういう選択は間違ってなかったと思う。


「依頼を出したい。魔法の基本を10分ぐらいレクチャーしてくれる人を頼む。本当に基本だけで良い。銀貨1枚ぐらいでどうだ?」

「それが相場でしょうね」


 そして、女魔法使いが紹介された。


「パルメよ、よろしく」

「シゲだ」


「言っておくけど、あなたは大した魔法は使えないわよ。理由はこれから説明するわ」

「あまり期待してない」


「魔法の威力と効率を決めるのは呪文に使う魔法言語の神秘性と、規則の複雑さと、表現の多様性」

「なるほど」


「順番に行くわね。神秘性はその魔法言語をある程度、熟知してる人間の数。少なければ少ないほど良い」

「理解した」


「規則の複雑さは、文法などの複雑さよ。物の個数とかの数え方は物によって変わったりするでしょ。そういうのも含まれるわ。複雑になるほど威力と効率が上がる」

「理解した」


「表現の多様性は、とにかく名詞や動詞が多い言語ほど良い。他にもあるけど、だいたい解るわよね」

「まあな」


「だから、薪に火を点けるぐらいなら、シャール語でも十分。ただし、魔法使いが使う魔法言語の1万倍は魔力を使うけど。やりかたはスキルの発動と一緒。魔力を込めて唱えるだけ」

「分かった、スキルで感じを掴んでみる。【文字置換】」


 頭の中のあいうえおの文章がかきくけこに変わった。

 問題ないな。

 さて次だ。


「【点火】、ごっそり魔力が減ったな」


 ロウソクの炎ほどの大きさの火は点いたが、みるみる魔力が減る感覚が感じられた。


「でしょ。日常会話を魔法に使うのはそんな感じ」

「魔法言語を教わるのはどうしたら良い?」


「無理ね。だって、神秘性の問題があるからね。どこの門派もコネと、大金を積まないと。解るでしょ」

「まあな」


「私があなたの依頼を受けたのは門派には入れたけど、私に金がないからよ。入っても、魔法言語のほんの一部を教えてもらうだけで、大金が要るのよ。かといって討伐依頼なんか行くと、ライバルに先を越されて破門よ。破門になると契約魔法を掛けられて、教えてもらった魔法言語は一言も口に出せなくなる」

「世知辛いな」


「裏技もいくつかあるんだけどね。呪文をなんとか盗み聞きして解析する。ただし、ばれたら門派に殺される」

「ありそうな話だ」


「魔法言語解析はダンジョン攻略みたいなもの。絶対に最奥に到達できるようになってる。それが、魔法言語の絶対的ルール。解けない魔法言語はない。ただし、かなり大変」

「そうだろな」


「自分で魔法言語を作る。これもかなり大変よ。規則と表現が少ない言語だとシャール語の方が何倍もまし」

「解析も新言語創造もどっちも手間と時間が掛かるってわけだ」


「最後に警告よ。3大門派のミステル、ハンフ、シュトゥルムフートの呪文を盗もうと思わないことね。そういう、意識を向けただけで、警戒魔法に引っ掛かるのよ。最悪殺される。他の門派も間抜けではないから、そういうのはやめた方が良いわ」

「ありがと」


「時間がまだあるから、雑談で良い?」

「ああ」


 それから、時間まで雑談して、別れた。

 日本語で詠唱したら、どうなるんだ?

 実験するしかないな。

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