第3話 怪奇の報せ

カラン、とドアベルが鳴った。

蓮が慌てて机の下から這い出すと、入口には中年の男が立っていた。

地味なジャケットに診察カバン。目の下には深い隈が刻まれている。


「こちら……神宮寺探偵事務所で間違いないでしょうか」


「はい、そうですけど――」


蓮が答えるより早く、凛が椅子を勢いよく引いて立ち上がった。


「依頼人だな! よしっ!」


子どものように瞳を輝かせ、紅茶のカップを倒しかけても気にしない。

依頼人の男は思わずたじろぎ、椅子を勧められてようやく腰を下ろした。


「私は……市立病院で医師をしております」

掠れた声でそう切り出す。


「病院! いいぞ、病院は機械が多い! つまり怪奇現象が起きやすい環境だ!」

凛が両手を打ち鳴らす。


「先生! まだ話の途中ですから!」

蓮が慌てて制止する。


依頼人は戸惑いながらも続けた。

「昨夜、その病院で……説明のつかない現象が立て続けに起こりました」


「説明のつかない? もっと詳しく!」

凛が机の端に手をつき、身を乗り出す。


「え、ええ……エレベーターが勝手に動き、無人の電動車いすが走り出し、ナースコールが一斉に鳴ったのです」


「出た! 最高だ! 実に興味深い!」

凛は声を弾ませ、頬を紅潮させる。


「先生、依頼人がドン引きしてます!」

蓮が小声で慌てるが、凛は構わずスプーンをカチリと鳴らした。


「幽霊だろうが機械だろうが関係ない! 私は証明したいんだ――必ず解き明かしてみせよう!」

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